「もう一度声を聞かせて」、光君の憔悴と女の最期 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・夕顔⑦

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「付き添っていた女房はどうしている」光君は重ねて訊く。

「その者ですが、もう生きてゆけそうにはございませんと、自分も後を追わんばかりに取り乱しまして、今朝は谷に飛びこんでしまいかねない有様でございました。五条の家の者たちに知らせたいと申しますが、少し落ち着きなさい、事情をよく考えてからにしようとなだめておきました」

それを聞くと光君はますますやりきれない気持ちになり、

「私もひどく気分が悪くて、どうなってしまうのかと思うよ」と言う。

「夕顔」の人物系図

何ごとも因縁だと思おうとするが

「何を今さらくよくよすることがありますか。何ごとも前世の因縁でございましょう。だれにも知られることはないと存じます。この惟光が念には念を入れて万事始末いたしておきます」

「そうさ、何ごとも因縁だと思おうとしているのだけれど、自分の無責任な恋心のせいで、人をひとり虚(むな)しく死なせたと非難されるに違いないんだ。それがつらくてやりきれない。少将命婦(しょうしょうのみょうぶ)にも内緒にしておくれ。尼君にはなおのことだ。忍び歩きをやかましく咎(とが)められるだろうから、私は合わせる顔もなくなってしまう」と光君は口止めをする。

「そのほかの僧侶たちにも、すべて違う話に言い繕ってあります」

と言う惟光を、光君は頼りにするしかない。

邸の女房たちは、この会話を漏れ聞いていったい何ごとなのだろうと不思議に思う。穢れに触れたとおっしゃって宮中にもいらっしゃらないのに、何をひそひそとお話しになっては悲しんでいらっしゃるのだろう……といぶかしむのだった。

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