もう一方、あの時碁を打っていたもうひとりの女は蔵人少将(くろうどのしょうしょう)を婿にもらったと光君は伝え聞いた。女が処女でないのを少将はどう思うかと気の毒であり、また、あの女の様子を知りたくもあって、光君は小君を使いに出すことにした。
「死ぬほど思っている私の気持ちはおわかりでしょうか。
ほのかにも軒端(のきば)の荻(をぎ)をむすばずは霧のかことをなににかけまし
(たった一夜の逢瀬ですが、もし結ばれていないのであれば、何にかこつけても恨み言など言いませんけれど)」
女の背が高かったのを思い出し、わざと丈の高い荻に文を結びつけ、「目立たないようにね」と光君は小君には言ったが、もし小君がしくじって少将に見つかったとしても、相手が私だと気づけば大目に見てくれるだろうと思っていた。……光君のこういううぬぼれは、まったく困ったものですこと。
そんな姿も憎めないと思う
小君は少将の留守に文を届けた。女は、光君を恨めしく思ってはいたが、思い出してもらったことで舞い上がり、返事はできばえよりも速さだとばかりに、小君に託す。
ほのめかす風につけても下荻(したをぎ)のなかばは霜にむすぼほれつつ
(あの夜をほのめかされるお手紙、とてもうれしいですが、下荻(したをぎ)の下葉が霜でしおれてしまうように、私は半ばしおれております)
字はうまくもないのに、それをごまかすように洒落(しゃれ)た書き方をしていて、いかにも品がない。いつだったか、灯火の光で見た女の顔を光君は思い出す。あの時、慎ましやかに対座していた小君の姉の様子は、今でも忘れることができないが、この女はなんの深みもなく、たのしそうにはしゃいでいたなと思い出すと、そんな姿も憎めないと思うのだった。……と、なおも性懲りなく、浮き名を流しそうな浮気心が残っているらしく……。
次の話を読む:死出の道に向かった女と、新たな旅路へ向かう女(4月7日14時公開予定)
*小見出しなどはWeb掲載のために加えたものです
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