これは長期的な関係が描けないときに起こるのですが、さらに、この「頑張っている」ことを示すわかりやすいシグナルが日本のカイシャでは長時間労働だったりするわけです。会社の上司と女性部下の関係は、放っておくと、囚人のジレンマ状態に非常になりやすいと思います。
なお、川口章教授は、このような企業の女性差別と「夫は仕事、妻は家庭」という性別分業が相互依存関係にあることを指摘しています。性別分業が女性の離職を増やして「統計的差別」につながると同時に、「統計的差別」などによって女性が活躍できないことが夫婦の性別分業を生み出すというわけです。企業・家庭にとって合理的に見える判断が、社会的には非合理的な状態を生み出しています。
無意識の偏見
こうした「どうせ辞めちゃうかもしれないから、育てない」に加えて、最近、海外企業のダイバーシティ&インクルージョンの取り組みでよく聞くワーディングは「無意識の偏見 unconscious bias」です。
「ブラインドオーディション」という有名な実験があります(Goldin and Rouse 2000)。オーケストラのオーディションで演奏者の前にカーテンがあり性別が分からない場合、性別が分かっている場合に比べて女性の演奏者が選ばれることが多くなるというものです。
なんとなく男性のほうが安心感がある、信頼できる、と思い込んでしまう――。欧米では日本よりもダイバーシティが進んでいると思われますが、そこで行き着いたのがこの概念のようです。女性自身が女性に偏見を持っている場合もあるでしょうし、必ずしも男女間の偏見だけではなく、人種間などでも起こり得ることです。
営業職女性などと話していると、顧客先で、その女性が責任者なのに「責任者を出せ」「男はいないのか」と言われることがあるという類のエピソードには事欠きません。日本の「無意識の偏見」は、社内だけではなく、顧客も含めた商慣習全体で問題かもしれません。
もうひとつ、女性が不利になっている要因は、マイノリティであるゆえの難しさです。
よくロールモデルがいない、ということが問題にされます。同性の先人がいないことにより「展望が描きにくい」という問題は確かにあるでしょう。でももっと重要なのは、スポンサーがいないということです。
ここで言うスポンサーとは、お金を出してくれる人のことではなく、自分を長期的に見守り、鍛え、引き上げてくれる人のこと。日本企業は若手社員に対してメンター制度を導入するケースが多いのですが、メンターは相談相手というニュアンスで、明確な役割が定められていないことも多いかと思います。これに対し、スポンサーとは厳しいことも言って、でも実際に権限を持って成長機会やポストをその部下のために取ってくるような人のことです。
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