日本のダイバーシティー推進の実情をどう見るのか。
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2023年上半期の芥川賞を受賞した『ハンチバック』は、健常者を前提につくられた社会に鋭く斬り込んだ。主人公は乳幼児期から筋力が低下する難病、先天性ミオパチーの女性で、背骨が湾曲している。この病気の当事者である作者は、日本におけるダイバーシティー推進の実情をどうみるのか(書面取材、聞き手:印南志帆)。
──芥川賞の贈呈式で、読書バリアフリーが進まないことを理由に「怒りだけで書きました」と語り、話題を呼びました。多くの人は、この問題提起で読書文化が健常者の特権性の上に成立していると初めて気づいたはずです。
文化や教育へのアクセスにおける健常な身体の特権性に気づくタイミングは、近年で少なくとも2回あった。1度目は、19年の読書バリアフリー法施行時。2度目が新型コロナウイルスによる外出制限時です。
法律や疫病による閉じ込め体験ではまだ足りず、私のように柄の悪い者が芥川賞にけんかを売ったらここまでの騒ぎになったというのも申し訳ない話ですが……。とはいえ私は元来、障害当事者団体の主張の弱さにはフラストレーションを覚えてきました。
本は重い
──改めて、読書の際にどんな不便がありますか?
まず、本は重い。それを無理して扱おうとすると本も帯もボロボロになる。だから逆に本がかわいそうです。日本では、本を少しでも雑に扱うとSNSなどで袋だたきに遭う。本のドミノや書店の攻めたディスプレーが炎上してきたように。私の本の扱い方を知られたら血祭りに上げられるでしょう。それに私の場合は外出のハードルが高く、かれこれ10年近く書店に行けていない。それでよく作家になれたものだと思います。
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