仲良しの家族が「介護地獄」に陥りやすいワケ 待ち受ける「自滅型介護」から身を守る方法

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思いやりが強い方にありがちなのが、つらいからといって、行政やボランティア、ホームヘルパー(在宅で生活している方々の家に訪問し、介護や生活援助を行う訪問介護員)といった「外の人たち」に頼ってしまうと「思いやりのない人と思われてしまうのではないか」「親戚や近所の人たちに介護を他人に任せている薄情な人間だとうしろ指をさされるのではないか」という妄想にとらわれてしまうことです。

そして、どんどん自分で抱え込んでいって介護の苦しみから抜け出せなくなってしまう。とりわけ高齢の方に「介護は、家族だけで行うもの」という昔の名残があるように感じます。

他人に頼ることの大切さ

「思いやりを捨てろ」と言っているのではありません。自分だけでなんとかしようと思わず、自分の家族、親戚、制度や道具などをどんどんと利用して、「あなたの持つ思いやりをさまざまな人を経由して届けることもしましょう」と言っているのです。

私が訪問看護ステーションを運営していたとき、こんなご夫婦の話を聞きました。

ケアマネージャーが作成したケアプランに沿って、毎週1回、訪問による身体介助と生活援助を依頼されていたのですが、ホームヘルパーのスタッフが調理や洗濯、掃除などの援助を毎回申し出ても、介護する奥さんがいつも「私がやりますから大丈夫ですよ」と援助の手を拒んでいらっしゃいました。

それでもケアマネージャーたちが「遠慮なくいつでも頼ってください」と粘り強くお伝えし続けたそうです。それが功を奏したのは、奥さんのお顔に疲労の色が目立ちはじめたころのこと。ようやく生活援助についても受け入れてくれるようになりました。

「こんなにラクをできるのなら、もっと早く甘えればよかったわ」

ほっとした笑顔でそう言われたときの表情が忘れられないと、ケアマネージャーはうれしそうに話してくれました。介護の目的は、介護を受ける方が、自分らしい生活を営めるようにすることです。

この原点に立ち返れば、周囲や地域の方たちは、介護サービスの力を借りることが「思いやりを減らすことにはならない」と思えるのではないでしょうか。なぜなら、介護・看護のプロフェッショナルに委ねたほうが、要介護者の本人にとってよりよい状況に改善できることが多いからです。

「家族のことは、家族が一番わかっている」。もちろんそうだと思います。しかし、あなたがよくわかっているのは、元気な頃の家族で、介護が必要な状態になったら、これまでとはまったく違った面も出てきます。

そんなときこそ、私たち介護・看護のプロフェッショナルの助けが必要なのです。介護、看護に従事している専門家たちは、身体・生活介助に関する知識・技術を専門的に学び、さまざまな利用者の介助を行ってきた経験がありますので、要介護者の接し方に長けているのです。

介護のすべてをあなたが背負う必要はありません。あなたの周りには、支えてくれる人や制度、物がたくさんあります。できるだけ、助けを借りられる人や物をあれこれ集めてできるだけラクをしながら、介護をしていく。それこそが、介護する側もされる側も幸せになる介護です。

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