日高屋が値上げしても熱く支持される納得の理由 ちょい飲み客のニーズをつかんだ日高屋の強み

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IRで示された日高屋の今後の出店戦略は、首都圏から関東甲信越など近接地域へのエリア拡大とともに、乗降客3万人程度の駅前への出店、を強化するというものだ。

この感じの駅は、駅周辺に飲食店街はあるものの、少し遅い時間帯になると開いている店が少ない傾向にある。遅めの時間帯に日高屋が開いていると、「かなり助かる」といった環境といえる。

競合の少ない地域で中華需要を獲得し持続性を担保しつつ、ちょい飲み需要を獲得する、というかなり賢い戦略なのである。日高屋では今後、さらに営業時間の延長などを店舗ごとに見直していくとしており、こうした郊外ちょい飲み獲得作戦はさらに業績改善に貢献することが見込まれる。

成長にあわせた人材確保がカギ

さらなる成長が期待できる日高屋にとって、これからの課題は、成長にあわせた人材確保だろう。これまで積極的な外国人活用で人材を確保してきた実績もあるが、円安が定着する中で、今までのように海外から人材が日本に来てくれるかどうかは不透明になっている。

冒頭にも触れたが、日高屋は、創業者が非正規を含めた従業員に株式を譲渡するなど、従業員への報酬面での配慮がなされている企業だといえる。これをさらに進めるなら、従業員のキャリアアップに対するもう一歩の踏み込みということになるように思われる。

業態としては近い「餃子の王将」(王将フードサービス)は、社内でのキャリアアップのため、調理の実務面では「王将調理道場」、経営管理を学ぶために「王将大学」という教育システムがあり、キャリアを積んだ従業員は希望すればフランチャイズ加盟店の経営者として独立できる仕組みを持っている。

厳しいといわれる外食の就労環境を考えれば、従業員に長く働いてもらうためには、報酬面に加えて、自らのキャリアアップに会社がどれだけ協力的か、といった観点が今後は重要になるはずだ。餃子の王将のこの視点が、さらなる成長を目指す日高屋の参考にもなるだろう。そして、こうしたキャリアアップへの配慮の重要性は、人手不足に悩む労働集約的な産業に共通していることでもある。

中井 彰人 流通アナリスト

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なかい あきひと / Akihito Nakai

みずほ銀行産業調査部で小売・流通アナリストに12年間従事。2016年同行を退職後、中小企業診断士として独立、開業。同時に、慶應藤沢イノベーションビレッジでベンチャー支援活動を開始、近年は地方創生支援活動も実施中。並行して、流通関連での執筆活動を本格化し、TV出演、新聞、雑誌などへの寄稿、講演活動などを実施中。2020年よりYahoo!ニュース公式コメンテーター、2022年Yahoo!ニュースオーサーを兼務。主な著書「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドDCSオンライン、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+ITなどで執筆、連載中。

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