松浦弥太郎がエッセイで書かないと決めている事 どのように書くとエッセイはおもしろくなるのか
同じ文章にいろいろな要素が詰め込まれていると、すべてが同じ強さ、同じ大切さで並んでいるように見えてしまいます。
ケーキについてエッセイを書くとして、「これはおいしかった、あれもおいしかった、それもおいしかった」と書けば、「全部同じくらいおいしかったんだな」というふうに伝わってしまうでしょう。すると読み手は、「おいしいケーキの情報をたくさん得られた」という淡々とした読後感を持ってしまいます。
そうではなく、ひとつの「とびきりおいしいケーキ」について自分が抱いている愛情や、おいしさについて徹底的に書く。そのケーキが持っている「秘密」を見つけて書く。すると読み手もその熱量に動かされ、もっと没入できるのです。
「詰め込みすぎ」が多い傾向
時おり一般の方のエッセイを読んでみると、傾向としては、「詰め込みすぎ」が多いように思います。文章についてアドバイスを求められるときも、「いろいろあれこれと書きすぎているので、どれかひとつに絞りましょう」と言うことは多いです。読み手はあなたがいちばん伝えたい「ひとつ」についてもっと知りたいんですよ、と。
この「ひとつ」についてのとびきりの例が、向田邦子さんの有名なエッセイ「字のない葉書」です。
この作品は戦時中の家族の様子を描いたものですが、主題は戦争ではなく「お父さんの愛」。日頃はふんどしひとつで家の中を闊歩し、大酒飲みで妻と子どもたちに手を上げるようなお父さんですが、筆まめで手紙の中だけでは優しかったと言います。
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