物議呼んだ「90歳の車椅子登山」知られざる舞台裏 三浦雄一郎氏の次男、豪太氏はどう支えたのか

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挑戦当日は、天候が落ち着きそうな午後にロープウェイで標高1600mの姿見駅まで上がり、スタートした。

父の腰にロープを回し、僕が後ろから引っ張るスタイルで滑った。スタートから1時間10分。一部には急斜面もあったが、父は一度も転倒せずにゴールすることができた。

父が腰にまいたロープを、後ろからコントロールして、大雪山を滑りおりた(写真:『諦めない心、ゆだねる勇気 老いに親しむレシピ』)

ゴールエリアでは、チーム全員でバンザイをした。

スキー、スノーボード、または雪山登山を経験したことがある方なら、白い雪で覆われた山の風景の素晴らしさはご存じだろう。そこを2本の板で滑ると、他では得られない爽快な気分になる。何度滑ってもそれは変わらない。

リハビリに励んできた父は最高の達成感を得ただろう。そして、父の目標に寄り添った僕らも同じ気持ちに浸ることができた。

障がいがある者もない者も、この体験を共有できる。素晴らしい1日だった。

「90歳なんて、そんなにトシではない」

父の「富士登山への挑戦」の際にも使ったアウトドア用車椅子は、文字通り、アウトドア活動用に作られた車椅子。
タイヤやパーツを変えることで、登山のほか、水に入ることなど、さまざまな野外活動が可能となる。

アウトドア用車椅子は、登山のほか、水にも入ることもできる。タイヤやパーツを変えることで、さまざまな野外活動が可能となる(イラスト:『諦めない心、ゆだねる勇気 老いに親しむレシピ』)

2022年の10月には、札幌の手稲山(標高1023m)に登り、山頂で10月12日生まれの父の卒寿を祝った。

当日は、家族、親戚、友人と、父の誕生日を祝う人々が集まった。

父はできるだけ自分で歩こうと頑張り、サポートとしてアウトドア用車椅子を用意した。歩くときは2本のノルディックポールを手に左右のバランスを保つ。途中、疲れて来たらアウトドア用車椅子に乗り、それをみんなで引っ張った。

無事に登頂した。70歳、75歳、80歳で父が挑んだエベレストに比べると、手稲山は小さな小さな山だ。だが、父はたくさんの人と一緒に山に登ることが本当に楽しそうだった。

「最高ですよ!」。このときはテレビの取材が入ったが、マイクを向けられると父は噛みしめるように言った。

そして、「90歳なんて、そんなにトシだとは思っていない。100歳に向けて頑張っていきたい」と力強く語っていた。

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