赤司:まだ校長に就任する前ですが、福島のあるネギ農家さんにお話を聞く機会があり、非常に興味深いことをおっしゃっていました。「私たちはネギを育てているのではありません。土壌を整えているだけです」と。
要するに、ネギは勝手に育ちたいし美味しくなろうとするから、それを邪魔しないように、より良い環境を整えるのが農家の仕事だということです。
教員はまさにこれだと思いました。生徒を育てているわけではなくて育つのを助ける、その人が伸びたいように伸びるのを邪魔しない、伸びやすいように環境を整える。それに尽きるのだと思います。
住田:そう、きっかけ作りと環境作りだけですよ、教員のできることは。この生徒には何が引っかかるのか。誰と出会って、どんな景色を見て、どんな体験をさせるのか。常にきっかけを与え続ける。そのためには一人ひとりとしっかり向き合って生徒のことを知らなければなりません。何に関心があるかがわからないと、育つ力を削いでしまいますから。
先生も、生徒の想像力を一緒になって面白がろう
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赤司:新陽高校では、それを「出会いと原体験」と呼んでいます。生徒は1学年で280名ほどですが、その多くが自分は何をしたいか、何が得意なのかがわからないと思って入学してきます。でも何か見つけたい。
そこで外部の方をお招きしたり、どこかに出かけたりして生徒にさまざまな体験をしてもらう機会を幅広く設けています。彼らが何に関心を持つかは未知数なので、とにかくそういう場をたくさん用意します。
住田:冒頭で赤司先生は「自分らしく生きるための選択肢が増える」とおっしゃっていましたが、まさにご自身でそれを実践しているわけですね。
赤司:もっとも選択肢が多すぎて選べなくなる可能性もありますから、そのあたりは先生がキュレーションしてあげる必要があるのかもしれませんね。住田先生がおっしゃったように、その子と向き合いつつ、「これが合うのではないか」と選択肢を絞っていく。
何か1つを押しつけるのではなく、100の選択肢を10まで絞るといった具合です。そうしたキュレーション力がこれからの先生には必要になるのではないでしょうか。
住田:あとはキャパシティを大きくすること。人間とAIの大きな違いは想像力、発想の豊かさです。生徒たちにはその豊かさがあります。もしかしたらそれは正解ではないかもしれないし、突拍子もなくて先生には理解できないことかもしれません。でも、その子はきっとものすごく真剣です。それを許容する力ですよね。
自分の考えを言ってみたけど、まわりの大人が「それは無理だよね」「おかしなことを言うね」などと否定し、大人が思う「正しい道」に導いてやろうと世話を焼くと、気づかないうちに成長の芽を摘んでしまうことになります。