IBMを辞めた彼女が「医師」の道に導かれたきっかけ 教員を目指すも「三度目の正直」で見つけた天職

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ほかにも、精神科医には高い倫理観が求められると考え、倫理と医療が関係する学会にはすべて入り、社会科学や人文科学など他分野の研究者とも積極的に交流している。

「私としては、いつまでもアウトサイダーというか、異邦人みたいな面は持っていたいと思っています」。柔軟に考え、行動できるのは、社会人出身の医師だからこそ、かもしれない。

諦めなければ道は開ける

一人前の医師になるには10年以上の時間がかかると言われる。「回り道医師」は働ける年数が短い、という意見もある。

しかし、医師の「価値」は、働ける年数のみで判断できるものではないはずだ。また、複雑化する現代社会においては、医師も広い視野を持ち、柔軟かつ多面的な対応が求められているのではないか。そう考えるからこそ、もっと多様なバックグラウンドを持つ医師が増えてほしいと願う。

「海外には、多様な医師を育成するため、医学部以外の学部を卒業した学士を対象にした医師養成大学院(メディカルスクール)があります。学士の医学教育に関する議論が活性化し、社会人が医師を目指しやすい仕組みが日本にも作られるよう、研究や勉強会を続けています」

学力的にも、経済的にも、医学部のハードルは高く、高校時代は、はなから諦めていた人も多いのではないだろうか。しかし、高校時代に興味があった人もなかった人も、杉原さんのように、のちの人生で医師になることは不可能ではない。

「基本的に私は、夢が終わるときって、自分が諦めるときだと思っています。社会人で医師を目指す、となったとき、夢をいつまでに実現しなければいけないか、という明確な期限はなくて、自分が諦めるかどうかだけの話。本当に好きで、やりたい気持ちがあるなら、必ず道は開けると信じています」

IBMで受けたような人脈を大切にする研修やシステム、環境を、医療者教育にも取り入れられないか、といった問題提起もしている。地域全体で患者さんを支える仕組みづくりにも取り組みたいと考えていて、やりたいことは尽きない。回り道をしたけれど、杉原さんは確かに、天職を得たのだ。

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吉岡 名保恵 ライター/エディター

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よしおか なおえ / Naoe Yoshioka

1975年和歌山県生まれ。同志社大学を卒業後、地方紙記者を経て現在はフリーのライター/エディターとして活動。2023年から東洋経済オンライン編集部に所属。大学時代にグライダー(滑空機)を始め、(公社)日本滑空協会の機関誌で編集長も務めている。

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