IBMを辞めた彼女が「医師」の道に導かれたきっかけ 教員を目指すも「三度目の正直」で見つけた天職

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その生活があまりに自然だったし、母が病気だからと言って、自分が医師になりたいなど考えたことはなかった。

しかし闘病記を読むうち、当事者にしかわからない心情と、自らの体験や気持ちがどんどんつながった。

「私も確かに患者の家族だった」と闘病記を読むことで初めて認識し、「そういう自分だからこそ患者さんの人生に深く関わる医師になれるのではないか」。そう思うと「医師になりたい」という気持ちを抑えられなくなった。

「回り道医師」を目指して

国立大学の医学部には大学で学士を取っている人を対象に、2、3年次に編入できる「学士編入学制度」があるが、杉原さんは、一般入試で医学部受験を目指した。

「社会人で医学部合格なんて難しいのでは?」と周囲は心配したが、もともと理系で勉強が好きだったため、とにかく挑戦してみようと思えた。ただ、非常勤講師の仕事を続けていたため、1年で合格を目指さず、3年スパンで考えて受験予備校に通った。これらが功を奏し、山梨大学医学部に合格した。

山梨大学医学部を選んだのは人脈づくりが大切だと考え、東京で開かれる学会や勉強会に参加しやすい立地だったからだ。また、学士編入学制度を行っていない割には、社会人になってから医学部に入り直す学生が比較的多いと聞いていた。

実際に入学してみると、100人ほどいた同級生のうち、社会人経験のある「回り道医学生」は1割程度だった。理学療法士や保健師、看護師など、ほかの医療系出身者も多く、彼らが臨床実習で患者さんと接する様子を見ていると、これまでの経験が生きているようだった。

一緒に学んでいると自分も彼らの経験を追体験していると感じたり、見よう見まねで実践してみたりすることができた。また、IBMで人との接し方について教育を受けた杉原さんの様子から、同級生が学ぶこともあっただろう。

日差しの差し込む診察室は明るい雰囲気(写真:筆者撮影)

社会人出身学生はマイノリティー的な存在だったが、「もともと他学部で学び、働いた経験もそれぞれで、多様性がありました。だからこそ、医学部で共に学ぶ中で周囲に良い影響を与えているなと感じました」。

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