中国人が逃げられない、「戸籍格差」の現実 これが「努力しても報われない」の実態だ

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彼は北京生まれで、最初から都市戸籍を持っており、北京の大学を卒業したという、中国の中では恵まれた人だ。そんな彼でさえ、日本に住むようになって、中国人の個人の人生に絡む煩わしい戸籍制度や濃すぎる人間関係から解放された、とすっきりした表情で話してくれた。

戸籍は、中国人にとって深刻かつ切実な問題であり続けている。最近も「都市戸籍をもらえるという条件である会社に入社できることになった。でも、給料は2000元(約4万円)だと言われた」という悲惨な例を聞いた。

都市戸籍があれば社会保障を確保できるので、給料よりもそちらの条件を優先せざるをえない、というかわいそうな若者も多い。日本と同じく、若者の貧困も問題となっているが、日本と中国ではその“内実”はまったく異なるのだ。

「努力して勉強すればいい大学に行ける。自分の夢にも近づける」と考え、何事も自己責任という考え方に慣れているのが今の日本人だろう。

戸籍はひとつで、社会保障サービスも基本的にはすべての人に等しく与えられる――。そんな日本人の目に、この中国の現実はどう映るだろうか。

一見すると非常に豊かになり、日本人とさして変わらない生活をしているように見える中国人だが、実はさまざまな“足枷”をはめられて生きている。それがGDP世界第2位の国・中国に暮らす、彼らの現実なのである。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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