中国人が逃げられない、「戸籍格差」の現実

これが「努力しても報われない」の実態だ

就職も同様だ。やっとのことで都市の大学に進学できた農村出身者は、都市戸籍がある人に比べて、条件は不利だ。企業側が採用の際、最初から「都市戸籍保有者であること」を応募条件として掲げることが多いからである。

そのため、地方出身者は最初から職業選択の幅が狭まってしまう。大学のランキングがどうのこうの、という以前の問題である。特に、国有企業や公務員、銀行員などの場合は、戸籍所在地がどこか、は就職の際に必ずチェックされる。

「蟻族」「反日」とも無関係ではない

数年前に中国で社会問題化し、日本のメディアでも取り上げられた「蟻族」という言葉を覚えている人も多いだろう。

「蟻族」とは、地方の農村戸籍出身者が都市の大学に進学したものの、企業に採用してもらえず、かといって、せっかく無理をして都市の大学に進学させてくれた田舎の親に顔向けもできず、帰省できないまま、都市の狭いアパートで、まるで蟻のように小さくなって暮らす人々のことを指す。日本でも紹介されたが、実は、「蟻族」が生まれた背景にも、この戸籍問題が隠れていた。

このように、中国社会で現れる現象には、必ず背後に日本人には想像もできないような制度が関係している。2012年に発生した大規模な反日デモなども、仕事に恵まれず、日々の暮らしに不満を持つ下層の若者が中心となっていた。日本では「反日だ」と騒がれたが、彼らの不満の矛先が必ずしも日本ではなく、中国社会の制度からくる日常の不満にあるのだ、ということは、中国人ならば誰もが知っていることだ。

そして、戸籍制度によって、進学や就職の門戸が狭められることは、一部の中国人にとって非常に大きなストレスとなっている。生まれ落ちた場所や戸籍で差別されることは理不尽であり、本人には無関係のことだからだ。

以前、東京都内で働くある中国人男性(29歳)に取材したとき、こんな印象的なことを言っていた。

「日本に住んでいれば、戸籍とかいちいち面倒くさいことを考えなくていいから、とても気が楽なんです。中国に住んでいたら、こんなに気楽な生活はとてもじゃないけどできないですよ」(拙著『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』より引用)

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