人生100年時代を生き抜く教育の「2大キーワード」 「アンラーン」と「デマンドサイド」の重要性

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2017年の学習指導要領改訂においてはさらに進んで、学習指導要領の構造自体を従来の「知識の体系」から「資質・能力の体系」へとシフトしました。ある学年で「何を知っているか」ではなく、プログラム全体を通して「何ができるか」を重視していくことへの転換です。そもそも日本においては、これまで、子供だけではなく大人も含めて皆と同じことができるというのが評価の基準でした。

しかし、社会の構造的な変化のなかで、これからは、他者との違いに意味や価値を認め、互いにそれを尊重しながら対話や協働を通じ「納得解」を形成する社会へと変わっていかなくてはなりません。そのためにも、2017年改訂で重視した主体的・対話的で深い学びを目指していく必要があります。

しかし今、デジタル化のなかで、大人も子供も同調圧力が増しています。子供たちはSNSで、即返信しないと仲間はずれにされると恐れています。大人も含めて社会全体においてもアルゴリズムによって自分の好きな情報や意見だけに囲まれるフィルターバブルの中にあって、異なる意見や議論に触れる機会が少なくなっています。

また、ますます複雑化した社会になっているのに目の前の課題を単純な二項対立の図式で捉え、どっちが正しいかの答えを急ぐ正解主義も横溢していると思います。

「強いリーダーに従う」でいいのか

コロナパンデミックを経て出された中央教育審議会の答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(2021年)では、休校期間中、これまで日本の学校教育が自立した学習者を育んできたのかという真剣な問いに対して否定的にならざるをえない要因として、こうした同調主義や正解主義を挙げています。

合田哲雄(ごうだ・てつお)/文化庁次長。1970年生まれ。1992年文部省入省。福岡県教育庁高校教育課長、国立大学法人化(2004年)や2008年学習指導要領改訂の担当、NSF(全米科学財団)フェロー、高等教育局企画官、初等中等教育局教育課程課長、内閣官房内閣参事官(人生100年時代構想推進室)、初中局財務課長、内閣府・審議官等を経て2022年9月から現職。兵庫教育大学客員教授、東北大学非常勤講師。単著に『学習指導要領の読み方・活かし方』(教育開発研究所)、共著に『学校の未来はここから始まる』(教育開発研究所)、『探究モードへの挑戦』(人言洞)。目黒区立の小中学校のPTA会長を6年間経験(撮影:尾形文繁)

パンデミックとデジタル化の進展は主体的・対話的で深い学びの重要性を浮きぼりにしました。その背景には、ネットにあふれる情報のファクトやロジックを自身で見極めていかなくてはならなくなっていることがあります。

プログラミング教育も、あらゆる情報機器は「魔法の箱」ではなく、それを動かしているのは最終的には人間の意思であり、人間の意思を伝える手段がプログラミングであることを学ぶことが目的です。

もちろん正直に申せば、ネット上に次から次へと流れてくる情報をいちいちチェックするのは面倒で大変です。世の中で流布している言説、強いリーダーの明確なメッセージ、あるいはAIがつむぐ言葉に従っていればラクでしょう。皆で同じことをしている状態は、私たちに安心をもたらしてくれます。しかしそれではデモクラシーの質は保てません。

自分たちのことは、自ら考え、対話を重ねて「納得解」を形成し、自分たちで決める。もちろん人にはそれぞれ立場がありますから、現実的には自分が置かれた立ち位置の中で、責任を持たなければなりません。しかし、他者の立場に立ったとしたらどう考えるだろうという立場の互換性も踏まえて考えていくことこそデモクラシーには不可欠です。そうした経験を重ねる学校教育は、子供たちの社会的自立とデモクラシーの重要な基盤です。

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