「甘やかされて育った少女」に訪れた恐るべき結末 習得が難しい「人の気持ちがわかる」という能力

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そんな中で祖父は、たったひとりの孫であるナルミを溺愛した。将来的にはまた婿をとらせて、会社を継いでほしいという思いもある。ナルミの機嫌をとることに腐心し、ほしいものは何でも買い与えた。幼稚園生のナルミがダンスをやってみたいといえば、早速プロのダンサーを家庭教師につけ、家の中にダンスルームを作るほどだった。ナルミはこの家のお姫様なのだ。

「もうかわいくないから、いらない」

小学生になった頃、ナルミは「犬を飼いたい」と言った。祖父は喜んでナルミをペットショップに連れていき、ほしい犬を選ばせた。小学1年生でも簡単にだっこできる、小さな子犬だ。

「かわいいねぇ。いいこ、いいこ」

最初のうちは、ナルミも犬をかわいがった。しかし、体が大きくなってくると「もうかわいくないから、いらない」と言う。ご飯をあげることも、なでてやることもしなくなった。もう興味がないのだ。

「やっぱり、猫がいい。猫ならちゃんと育てられる」

そう言うナルミに祖父は猫を買い与えたが、結果は同じだった。

ナルミのわがままは、小学校でも次第に目立つようになっていった。低学年のうちは受け入れられていたが、3年生になるとクラスで浮くようになった。とくに運動会や学芸会では、自分がトップで目立つ役割でないとヘソを曲げてしまう。

「どうして私じゃないの! あの子より私のほうがかわいいし、ダンスだってうまいのに」

そう言って当たり散らすナルミから、友だちも離れていった。

学級委員の選出では、ナルミは自分に票を入れた。開票してみると、ナルミに入った票は1票のみだった。

「私が学級委員をやってあげようと思ったのに!」

家でナルミが怒りながら話をすると、祖父は「みんなわかってないよなぁ」と同調した。そして、機嫌を直すようにとはやりのゲームを買ってあげた。ナルミの自己中心的な行動をたしなめる人は、誰もいなかった。

彼女の家庭内暴力が始まったのは、小学校高学年からだ。不満を持つと、まずは家の中にあるものを壊す。ガラスを割り、冷蔵庫の中身を放り出すなどして暴れる。どこにそんなパワーがあるのかと思うほど、そういうときの力は強く手が付けられなかった。誰かしら大人が止めに入ると、殴る蹴るの暴行を加えるようになり、警察沙汰になったこともある。

しかし、地元の名士である祖父が取り繕うことで、問題は明るみに出なかった。

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