「甘やかされて育った少女」に訪れた恐るべき結末 習得が難しい「人の気持ちがわかる」という能力
ところが、実家が不渡りを出して没落すると、一変しました。収入がなくなったと同時に、友人もいなくなりました。自己中心的で、プライドだけは高いKには本当の友人はいませんでした。お金目当てで集まっていただけだったのです。
すでに40歳近くになっていたKは、自分でお金を稼いだことがありません。社会のルールもよくわからず、空気を読むこともできず、どうやって生きていいのかまったくわかりませんでした。そして、犯罪に走りました。強盗です。
強盗は、もっとも原始的であり、頭を使わない犯罪です。検挙されるリスクも相当高いので、プロの犯罪者はやりません(窃盗や詐欺にはプロがいます)。強盗は相手を脅したりして無理やり金品を奪うわけですから、必ず相手に接触しなくてはなりません。顔も見られます。その分、逮捕される危険性も高い犯罪です。
でも、Kにはそれしかできませんでした。郵便局の前に張り込み、出てきた高齢者を狙って「金を出せ」と脅します。わずかな年金を奪うようなことを数回繰り返したのち、通報されて捕まりました。
家が没落して強盗になるという単純さ。呆れるような悲しいような気持ちになります。
Kは刑務所の中で、自分の問題に気づくのに2年間かかりました。甘やかされて育ったため思考は他罰的で、「親が悪い」「友人が悪い」「社会が悪い」といった思いから抜け出すことがなかなかできませんでした。
自分の気持ちは伝わっているという思い込み
甘やかされて育った子は、「自分の思考や感情が相手に伝わっている」という思い込みが強くなります。これは認知バイアスの1つで、「透明性の錯覚」と言います。
とくに身近な人に対して「言わなくてもわかっているだろう」と思い込んでしまい、「なぜ、わかってくれないのか?」とイラッとするというのは多くの人が経験していることでしょう。
「疲れているのをわかっているはずなのに、なぜ家事を手伝ってくれないのか?」
「こうしてほしいと思っているのに、なぜやってくれないのか?」
伝えてもいないのに、相手がわかっていると思い込んでいるのです。そのほか、噓や隠し事が実際以上に相手にバレていると感じたり、相手が知らない知識であっても共有できていると思ったりするのも「透明性の錯覚」の働きです。
誰もが陥ることのあるバイアスですが、「透明性の錯覚」が強いとコミュニケーションに支障が出るのがおわかりでしょう。本当はもっと言葉で伝えるべきところを、伝えないままに「なぜわからないのか」と責めたり嘆いたりすることで、周囲の人には「難しい子」「扱いにくい子」と思われます。顔色をうかがって機嫌をとってくれる家族なら問題なくても、社会適応は難しい。学校や職場で浮きやすくなります。
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