「親といるとなぜか苦しい、イライラする」の正体 大人になってからも尾を引く「愛着障害」とは

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愛着は人間だけに備わった仕組みではありません。種により強弱の違いはありますが、野生の哺乳類が、子が生まれてから独り立ちするまで育てるのも、まさしく愛着という仕組みの為せる業です。

ドキュメンタリー番組で野生動物の母親が熱心に子育てをする場面を見ると、つい人間の感情に当てはめて感動します。それもそのはずです。同じ生物学的仕組みを共有しているので、わが子のために必死になるという点では同じですし、共感することができるわけです。動物が人間みたいなわけではなく、同じ仕組みを人間も哺乳動物として受け継いでいるわけです。

ただ1つ、野生動物と人間とで異なるのは、独り立ちをしてからも愛着が続くことです。親による保護や世話が必要なくなるまで愛着が続くのは、野生動物も人間も同じです。しかし人間の場合は、子どもが成長し、独り立ちしてからも、何か困ったことがあったらいつでも助けになろうという親の気持ちが長く続くのです。

「愛着障害」という死に至る病

ところが世の中には、愛着がうまく働かない親というものが存在します。とくに深刻な問題に発展しやすいのは母親の愛着が不安定な場合です。

愛着は子どもの安全と成長のために不可欠な仕組みである以上、愛着が働かない親のもとで子どもが育つことは情緒的な問題ではなく、身体的健康や生命にもかかわる問題になってしまうのです。そこで私は、親の愛着を十分に得られず、感じられなかった「愛着障害」こそが現代人にとっての「死に至る病」であると捉え、2011年に『愛着障害』、2019年に『死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威』という本を書きました。

「死に至る病」とは大げさな、と思われたかもしれませんが、決して比喩的な意味でそのように呼んでいるわけではありません。

子どもは、親の事情や状態がどうなっていようと構わず生まれてきます。そして本能的に親の愛着を求めます。それが満たされなかった場合に、子どもが抱え込むことになる困難は枚挙に暇がありません。

愛着が十分に発動していない親の元で育つ子は、情緒が不安定といった心理的な問題のみならず、行動の問題や身体的、社会的発達、免疫系などにも支障が生じることがわかっています。

幼いころは、ADHD(注意欠如/多動症)などの発達障害や発達障害によく似た状態、身体的な虚弱やアレルギー、思春期以降では、不安障害やうつなどの気分障害、自傷行為、摂食障害、さまざまな依存症、慢性的な痛み、パートナーとの不安定な関係や育児困難等、さまざまな生きづらさや心身の症状に、生涯にわたり悩まされる可能性があるのです。

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