日本が「フランス料理世界大会」勝てない根本理由 参加したシェフらが語る「日本に足りないもの」

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今大会は「1位をとるための大会」と、日本のボキューズ・ドールアカデミーも体制を変えて臨んだ。本番とほぼ同じキッチンを設置して練習に励み、プラッターは、世界に冠たるプロダクトデザイナーの鈴木啓太氏とデザインを作りこみ、あんこうを焼くための型や、ガルニチュールを固める型などは、3Dプリンターで作るなど、新しい手法も試みた。

日本チームは、子どもが選んだ一番大好きなプレート賞に選ばれた(c)Julien Bouvier studio

スコットランド産あんこう(本番で使ったあんこう)が日本で手に入らないというデメリットはあったが、それでも、魚がテーマということで、日本に利もあった。では、なぜ勝てなかったのであろうか。

圧倒的に準備不足だった

シェフたちの話を総合すると、準備と作戦が足りなかったのが最大の理由のようだ。国内大会を勝ち抜き代表となった石井友之シェフ(ひらまつグループ「アルジェント」所属)は、「今回、レシピのすべてをほとんど自分で決めてきました。もちろん、随時先輩方の意見は聞き、そのたびごとに修正はしてきましたが、もっと、根本的なところでアドバイスをもらうべきだったのかもしれません」と振り返る。

キッチン審査員であり、メンターを務めた長谷川幸太郎シェフも、「石井さんにまかせすぎた部分があった」と認める。「北欧勢は、デンマークなら、三つ星で、ボキューズ・ドールの優勝者にして、ベスト50の1位でもある『ゲラニウム』のラスムス・コフォードシェフがレシピを監修しています。また今回、ハンガリーから出場したのは二つ星のシェフで、6年かけてコフォードシェフが指導したそうで、その差は歴然です」。

つまり、今回勝ったチームは長い時間をかけ、ボキューズ・ドールのために訓練をして料理の腕を上げ、ボキューズ・ドールで勝つための戦略を練り上げた、と言える。石井シェフもお店を休んで大会に臨んだが、「強い国」に比べれば訓練期間が短かったのは否めない。

日本チーム、写真左から浜田シェフ、日本代表として戦った石井シェフ、長谷川シェフ、米田シェフ、コミとして参加した林シェフ(Ⓒ Bocuse d’Or2023/GLevents)

この準備不足が本番で足を引っ張る結果となる。日本チームのコーチを務めた浜田統之シェフは、「厳しいことを言うようですが、料理の内容としては、12位は妥当だと思いました。落ち着いているように見えて、石井さんが相当テンパっていて、かぼちゃのデザートのメレンゲが足りないなどということもありましたし、外堀を埋めていくことで精いっぱいで、料理の内容を深めるところまでいけなかったような気もします」と話す。

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