日本人が知らない「感情」が果たす超重要な役割 世界中の研究機関が注目する「感情神経科学」

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人間の振る舞いにもっとも強く影響を与えるのは理性的思考であって、情動は望ましくない結果を招く非生産的な役割を果たすことが多いと信じられていた。

だがいまではもっと解明が進んでいる。思考や決断を促す上で情動は理性と同じくらい重要だが、その作用のしかたは異なる。

理性的思考は目標や関連するデータに基づいて論理的結論を導き出すが、情動はもっと抽象的なレベルで作用する。それぞれの目標に当てはめる重要度や、データに与える重み付けに影響を与えるのだ。

そうして築き上げられる評価の枠組みは建設的であるだけでなく、不可欠なものだ。知識と過去の経験の両方に根ざした情動は、現在の状況や未来の見通しに関する考え方を、多くの場合とらえがたいが重大な形で変える。

情動に関する伝統的な理論

現在のように情動の研究が爆発的に盛んになる以前、ほとんどの科学者は、はるばるチャールズ・ダーウィンにまでさかのぼる枠組みで人間の感情をとらえていた。情動に関するその伝統的な理論では、直観的に妥当そうに思えるいくつもの原理が示されていた。それは以下のようなものだ。

「恐怖、怒り、寂しさ、嫌悪感、喜び、驚きという少数の基本的な情動が存在していて、それらはすべての文化に共通しており、おのおのの機能は重なり合っていない。それぞれの情動は外界の特定の刺激によって引き起こされる。それぞれの情動はいつも同じ特定の振る舞いを引き起こす。それぞれの情動は脳内にある専用の特定の構造体の中で生じる」

またこの理論には、少なくとも古代ギリシアにまでさかのぼる二分法的な心の見方も取り入れられていた。すなわち、心は競合しあう2つの力からなっていて、一つは論理的で理性的な「冷たい」力、もう一つは情熱的で衝動的な「熱い」力であるという見方だ。

何千年ものあいだこのような考え方が、神学から哲学、そして心の科学に至るまでさまざまな分野に受け入れられていた。フロイトもこの伝統的な理論を研究に取り入れた。

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