人間の感情に関する昔ながらの学問に現代のツールを当てはめた感情神経科学は、情動に対する科学者の見方を一変させている。旧来の見方では、感情に関する基本的な疑問に対してそれらしい答えは出てくるものの、人間の脳の働きを正確に表現することはできない。
たとえばそれぞれの「基本的」な情動は、実は単一の情動ではなく、ある範囲、すなわちカテゴリーに含まれるさまざまな感情を十把一絡げに表現したものであり、そのカテゴリーどうしも必ずしも明瞭に区別できるものではない。
たとえば恐怖もそれぞれ微妙に違うし、場合によっては不安と区別するのが難しい。もっと言うと、長いあいだ「恐怖」の中枢と考えられてきた扁桃核は、実際にはいくつもの情動で鍵となる役割を担っているし、逆にすべてのタイプの恐怖に欠かせないわけでもない。
そこで今日では、5種類か6種類の「基本的」な情動から大きく視野を広げて、当惑や自尊心などのいわゆる社会的情動、さらには空腹感や性的欲求など、かつては衝動と考えられていた感情を含む、数十種類もの情動について論じられるようになっている。
今最もホットな「感情神経科学」
情緒的健康についていうと、感情神経科学では、鬱病は単一の病気ではなくて4つのタイプからなる症候群であり、それぞれ異なる治療が有効で、神経学的特徴もそれぞれ異なるとされている。この新たな知見に基づいて、鬱病患者が自宅で症状を和らげるのに役立つスマートフォンアプリも開発されている。
さらにいまでは、投薬せずに精神療法だけで有効かどうかを、脳スキャンによってあらかじめ一人一人判断できる場合もある。また、肥満から喫煙依存症や拒食症まで、情動に関連したさまざまな病気の新たな治療法も研究されている。
このような成功によって勢いづいた感情神経科学は、学術研究の中でもいちばんホットな分野の1つとなっている。
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