日本人が知らない「感情」が果たす超重要な役割 世界中の研究機関が注目する「感情神経科学」

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1995年のダニエル・ゴールマンの著作で有名になった、ジョン・メイヤーとピーター・サロヴェイによる「情動的知能(心の知能)」の理論も、一部それに基づいている。我々が自分の感情について考えるための枠組みにもなっている。だがそれは間違っているのだ。

原子の世界を解き明かす道具が編み出されたことで、ニュートンの運動法則は量子論に取って代わられた。それと同じように、情動に関する旧来の理論もいまでは新しい見方に道を譲っている。それは、神経画像技術などのテクノロジーのすさまじい発達によって、脳の中を調べたり、脳を使って実験したりできるようになったことが大きい。

脳の研究における3つの大きな進歩

ここ数年のあいだに開発された一連のテクノロジーのおかげで、ニューロンどうしのつながり方をたどって、いわば脳の回路図、「コネクトーム」を描き出せるようになった。

そしてこのコネクトームの地図によって、以前なら絶対に不可能だった形で脳の中をあちこち調べ回れるようになっている。不可欠な回路どうしを比較したり、脳の特定の領域に絞り込んでその中の細胞を調べたり、思考や感情、振る舞いを生み出す電気信号を解読したりできるようになっている。

もう一つ、光遺伝学の進歩によって、動物の脳の中にある一個一個のニューロンを「制御」できるようにもなっている。ニューロンを選択的に刺激することで、恐怖や不安、鬱などの特定の精神状態を生み出す脳活動のミクロなパターンを解き明かせるようになった。

3つめのテクノロジーである経頭蓋刺激法では、電場や電流を用いることで、人間の脳の特定部位における神経活動を活性化させたり阻害したりできる。被験者に永続的な影響は残らないし、これによって各構造体の機能を推定できる。

このようなさまざまな手法やテクノロジーによって新たな知見と新たな研究が豊富に生まれたことで、「感情神経科学」と呼ばれるまったく新しい心理学の分野が興ったのだ。

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