「もし今日ご協力がなければ非常に危なかったが、おかげさまで秀吉はしんがりを務めることができました」
『徳川実紀』は江戸幕府の正史がゆえに、さすがに家康をよく描きすぎているように思うが、家康が信長のせいでひどい目にあったことには違いない。なんとか無事に退却した家康は、京都に戻ったのちに、岡崎城へと帰っている。
信長の理不尽さに負けない「家康の忍耐」
家康は自身を放置した、信長にどんな思いを抱いただろうか。信長も浅井の裏切りという想定外の出来事に動揺したとはいえ、援軍を要請しておいて、自分だけ退却するのは対等な同盟相手にすることではない。
それでも家康は、信長から出兵要請があれば、その後も全力で応じている。命からがらの撤退戦から2カ月後の6月には、信長は裏切った浅井長政に攻撃をしかけた。朝倉が8000もの援軍を浅井に送るなかで、家康は自ら5000の兵を連れて、信長のもとへとかけつけている。
「怒りを敵と思え」
家康の遺訓とされながら、実は後世で創作された言葉だが、いかにも家康らしい言葉として信じられたことだけのことはある。家康の変わらぬ忠心は、信長の心に刻まれたことだろう。
それでも、いつ誰が裏切るかわからず、油断したら命を落とすのが戦国時代だ。信長はさらに家康の覚悟を試すかのように、過酷な試練を与え続けるが、家康はそれをも呑み込んでいくのだった。
【参考文献】
大久保彦左衛門、小林賢章訳『現代語訳 三河物語』(ちくま学芸文庫)
宇野鎭夫訳『松平氏由緒書 : 松平太郎左衛門家口伝』(松平親氏公顕彰会)
平野明夫『三河 松平一族』(新人物往来社)
所理喜夫『徳川将軍権力の構造』(吉川弘文館)
本多隆成『定本 徳川家康』 (吉川弘文館)
柴裕之『青年家康 松平元康の実像』(角川選書)
二木謙一『徳川家康』 (ちくま新書)
日本史史料研究会監修、平野明夫編『家康研究の最前線』 (歴史新書y)
菊地浩之『徳川家臣団の謎』(角川選書)
大石泰史『今川氏滅亡』 (角川選書)
佐藤正英『甲陽軍鑑』 (ちくま学芸文庫)
平山優『武田氏滅亡』 (角川選書)
笹本正治『武田信玄 伝説的英雄像からの脱却』 (中公新書)
太田牛一 、中川太古訳『現代語訳 信長公記』 (新人物文庫)
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