アメリカの銀行破綻はG7世界体制崩壊につながる ドルの凋落と金の復活、アジア、アフリカの復興を呼ぶ

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あるものが貨幣となるには、5つの貨幣の機能を充足しなければならない。①頭の中だけで存在し、現実的価値の実体を持たなくてもいい観念的貨幣、つまり計算の単位としての価値尺度機能、②流通を円滑にする流通手段としての機能、③現実に存在し価値を体現している実体的貨幣、すなわち価値を蓄蔵する蓄蔵貨幣としての機能、④国際決済において支払い手段として承認される機能、最後は⑤誰もが認める世界貨幣としての機能だ。これをすべて満たすものは、今の時代でもやはり金や銀しかないともいえる。

1971年、当時のアメリカのニクソン大統領がドルと金との兌換一時停止を宣言した「ニクソンショック」までは、ドルは金とのリンクをもっていたことで、間接的であるが、この5つの機能を持つことができた。世界中の誰もがドルを信頼し、いざというときにドルを金に変換すればいいので、安心してドルを使うことができた。

ドルは信用貨幣であり、一種の手形である。その意味でそれ自体に実体的価値を持っているのではない。国家による信用の裏付けが価値なのである。しかし、金にない利点もあった。それは金と違って経済成長に合わせてどんどん自由に発行できることで、貨幣不足を避けることができるという特徴だ。

ほころぶSWIFT体制

もちろん金に価値の実体があるといっても、それはその産出に必要な労働の費用にすぎず、金を価値として認める人々の信用がなければ意味がない。「猫に小判」という言葉にあるように、猫にとっては金であろうとドルであろうと無価値である。しかし、金はそれを生産する膨大なコストがかかることで、信用のみならず実際にも大きな価値を持っている点がドルのような通貨と異なっている。

だからこそ、絶大なる生産力を持つことで信用を獲得したアメリカのドルは、金に代替できる信用を勝ち得ることができたともいえる。価値尺度として、流通手段として、蓄蔵貨幣として、支払い手段として、世界貨幣として、アメリカという体制が世界経済の中心にある限り、あたかもドルは金のような役割を持つことができた。

しかし、国家というものは成長することもあれば、没落することもある。アメリカ経済はすでに世界経済を牛耳るレベルにはない。その実態を暴露したのが、2022年から始まった経済制裁のつまずきである。

アメリカはドルによる決済体制「SWIFT」を持つことで、すべての国の貿易にドルの使用を義務づけることができていた。だからこそ、この支払い体制からある国がはじかれると、その国は国際貿易決済が不可能となり、経済が立ちいかなくなる。アメリカはヘゲモニー(覇権)国家として、この方法を弱小国に多用してきた。

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