では、なぜ金を求めるのかといえば、金にはとてつもない魅力があるためだ。それは、金の生産は容易ではなく大量に生産できないこと、また腐敗することもなく、また細かく分割することもできることで、これまでの産出した金が価値を失わず残っていることだ。
18世紀イタリアの経済学者フェルディナンド・ガリアーニは『貨幣論』の中で、金を「神の授けもの」といっているが、まさに人間が人工的に作れないという点でその名にふさわしいといえる。
もちろん今後も、金が通貨として流通することはもはやないだろう。すでに、1オンス(約28.35グラム)=2000ドル以上という時代を迎え、金は稀少であり、通貨として流通する可能性はない。しかし金が、ある通貨の準備金になる可能性は十分ある。だから、今多くの国が準備金としての金を追い求めているのだ。
「世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」
今回のアメリカの銀行システムの危機は、IMF体制の危機問題と関係している。マルクスは、恐慌が起こったときに多くの者が「金」を求めることをこう述べている。
「鹿が水辺を求めて鳴くように、世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」(拙著『超訳「資本論」』祥伝社新書、104ページ)。
確かに、今回の銀行破綻で求められているのはドルであり、金ではない。しかし、ドルが国際通貨として不安定であることがインフレを招き、そのインフレが利上げを呼び、その利上げが資金ショートと預金引き出しを導き出したのだとすれば、問題は簡単ではない。
インフレを避けるためにドルを強くすべく利上げをすれば、資金需要は高まり、銀行預金のショートは加速される。しかし利下げをすれば今度はインフレが加速し、早く通貨を使おうと銀行の預金ショートは進む。まさに王手飛車取り、トレードオフの関係だ。
今の危機を乗り越えるには、経済制裁を解除し、ドルから離れていった国々を元のドル決済の国に戻すしかない。とはいえ、アジアやアフリカ、ラテンアメリカ諸国にはこれまでの強いドルで何度も経済破綻をした国々が多く、ドルへの不信は大きい。復帰は簡単ではないだろう。もはやG7による世界経済支配の体制は終わりに近づきつつあることを理解したほうがいいのかもしれない。
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