高い?無印良品低迷、苦闘する"らしさ追求"の呪縛 金井政明会長が「難しさを感じている」と語る原因

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土着化と言うのは簡単だが、実現するのは容易ではない。都会的なところを主戦場としてきた「無印良品」が本気で土着化していくには、乗り越えなければならない壁がある。その1つが、地域に合わせた品ぞろえだ。

「都会のマンションと地方の戸建てでは、こたつのサイズ感が違いますよね。食器の数も違うかもしれない。その意味で品ぞろえの構成を変えなければいけない。きめ細かくやるためには個店がそれを仕入れる構造にしなければいけないので『個店経営』を進めています」

また、「個店経営」を実現するには、店舗の全スタッフが“商人”でなければならないが、それが必ずしも実現できていないのも課題だという。

「個店の経営と運営は、基本的に“作業”ではなく“商人”としての仕事です。品出しもレジ対応も、すべてが“商人”としてのマーケティングであり、お客様のニーズや声なき声に気づいて、品ぞろえやプライシング、売り場作りに活かすこと。

もっと言えば、無印が標榜する『感じ良い暮らし』について、お客様に伝えていくコミュニケーションの場でもあるのです。個店経営は、店舗のスタッフが“プロの商人”でなければ成立しないのですが、そこはまだまだです」(金井さん)

課題を1つひとつ解決しながら、今後も進めていくという。

無印良品の活動を伝える本(撮影:今井康一)

「つねに疑いの目を持ち続ける」のが無印らしさ

最後に改めて“無印良品らしさ”について聞いてみた。「体制や権力、マジョリティであることに、つねに疑いの目を持ち続ける視点は、先人からの教えとして受け継いできたことの1つです」(金井さん)。

小さいもの、弱いもの、はかないものなどに対する眼差しを忘れてはならない。そういう思想をベースに、「何かが変だ、違和感がある」といったことに対し、「こうあったらいいのに」と自ら考え、動いて策を打っていくのが“らしさ”の核心にあるという。

外から見ていると「マジョリティ」に見えている「無印良品」が、「世の中のマジョリティに、つねに疑いの目を持ち続けること」は容易ではない。が、創業時から貫いてきた思想であり信条だけに、挑戦してほしいと願う気持ちも強い。これからの「無印良品」のさらなる変化と前進に期待したい。

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川島 蓉子 ジャーナリスト

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かわしま ようこ / Yoko Kawashima

1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了後、伊藤忠ファッションシステム入社。同社取締役、ifs未来研究所所長などを歴任し、2021年退社。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』『アパレルに未来はある』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)など。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

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