例えば、1980年に発売された「われ椎茸」は、製造工程で排除されていた「われてしまった椎茸」を集めたものだ。1981年発売の「パンティストッキング」は、1足ずつボール紙やビニールで包むパッケージを排除し、まとめて袋に入れる簡易な包装にする。それによって手に取りやすい価格を実現する――今でも十分に通用する視点を備えていたのだ。
その精神は脈々と続いている。綿を梳(す)くときに発生する“落ち綿”と呼ばれる繊維で作ったシャツや、パッケージに直に商品情報をプリントして箱を省いたレトルト食品など、姿勢を貫いた商品は数多い。
今や「無印良品」は、全国にショップが532(2022年8月末時点)。街中の大型ショップをはじめ、ショッピングモールやファッションビル、空港、駅など、いたるところで見かけるようになった。国内にとどまらず、海外では欧米やアジアをはじめ、 32カ国にわたって604店舗を展開している。扱っている品目は約7000以上にも及ぶ。
一方で、良品計画の2022年8月期は営業利益327億円と前期比約23%減、2022年9~11月期も50億円と前年同期比で半減した。原材料高や円安といった逆風もあるが、良品計画の会長を務める金井政明さんに現状を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「僕たちは今、少し悩みの中にいると感じています」
いったい、どういうことなのか。
今や多くの店が無印と似たような商品を扱っている
「社会はどんどん変わっていくので、時代の空気に対してアクションしていかないといけない」(金井さん)。ところが、その部分に難しさを感じているという。
「無印良品」の使命の1つは、「誠実な品質と倫理的な意味を持ち、生活に欠かせない基本商品群、基本サービス群を、手に取りやすい適正な価格で提供する」にあった。しかし、規模が大きくなるとともに、そうではないとらえ方をされるようになってきた。調査すると、「ハードルが高い」「値段が高い」といった声が上がってくるという。
「無印良品」が登場したころは、簡素な美しさを備え、価格が安い日用品は少なかった。模様やマークがついていない台所用品や食器、バストイレタリー関連品など、「シンプルでかっこいいものがこの値段で買える」と、重宝していたのを思い出す。
それが昨今、100円均一をはじめ、多くの店が無印と似たような商品を扱うようになっている。相対的に無印が「値段が高い」「ハードルが高い」ととらえられるようになったのもうなずける話だ。
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