外部環境の変化だけでなく、社内の商品開発にも課題がある。「過去の『無印良品』らしさにとらわれてしまう」(金井さん)というのだ。要は「バックミラー」で過去を見ながら、新しい商品を開発している。
「『無印良品』はもともと、哲学的な思想めいた背景が色濃いですから、そこから逸脱するのが怖い」(金井さん)
1980年の立ち上げにかかわった田中一光さんの文言にあたると、「傷ついた地球の再生」「多様な文明の再認識」「新品ではないものの美意識の再考」などについて触れていて、古びるところがまったくない。例えば、アパレルについては、基本的に自然素材を使い、アジアのさまざまな民族の服に根っこを持ちながら、自然で楽に着られる服を標榜してきた。
ところが、「これは僕も悩んでいるところなのですが、それを普通にマーケットに出したときにはニッチになるんです」(金井さん)
ユニクロと重なってしまう悩み
今はよくも悪くも無印良品とユニクロのアパレルはよく比較対照される。日々の暮らしの中で活躍する服を、機能合理的に追求してきた「ユニクロ」と、日常に寄り添いながら人と自然にやさしい服を提供してきた「無印良品」とは、重なってくるところが多い。
どちらのブランドも、大型ショップに行くと、完璧なVMD(ビジュアルマーチャンダイジング、視覚的な販売戦略)計画のもと、服がぎっしり並んでいる。サイズのバリエーションも豊富で、それぞれにコンパクトなストーリーが付されていて、見やすく買いやすい工夫がなされている。
ただ筆者の印象としては、両者の商品の違いがよくわからないし、商品の物量で迫ってくるようなアパレルのありようが、「無印良品」らしいのかどうかと疑問を感じていた。
「無印としてはユニクロさんと別の道を歩んでいるものの、重なってしまう部分もあります。綿や麻など天然ということをベースにやってきているけれども、生活や気候も変わり、例えば、夏に歩いて汗をかくと、綿はべたっと肌に張り付いてしまう。このあたりはテクノロジーの糸を使う必要もある。
一方、ユニクロさんも化繊だけなく、天然素材も使うことでうちの領域に入ってくる。無印は現代の、そして未来に向けた服を作らないといけないと考え、ユニクロさんとは異なる独自性を一生懸命追求しています」(金井さん)
とはいえ、それは簡単なことではない。「困ったことに『無印らしくしないといけない』という強迫観念が現場にある」(金井さん)と言うのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら