日本は、その自然な動きを拒否している。もちろん流出国の医療事情をおもんぱかってのことではない。前回、医師会の見解として紹介したように、「外国の医師を入れると水準が下がる」という理由によってだ。
しかし、本当に水準が下がるのだろうか? 多数の移民医師を受け入れてきたアメリカの医療水準は、下がったのか?
私の経験ではまったく逆だ。アメリカ滞在中に、スタンフォード大学付属病院で生検(細胞診断)を受けたことがある。担当医師は南アフリカ出身だった。麻酔なしの細胞切取ですぐに済んでしまった。「日本の医療も優れているが、このような先進医療はできないだろう」と言われた。そのとおりだ(日本で検査をしたことがあるが、全身麻酔のため入院の必要があった)。日本医師会は、職を奪われることを恐れているだけではないだろうか?
仏を作っても魂を入れなければ無意味
表の数字を見ても、アメリカが世界中から専門家を受け入れていることをあらためて痛感させられる。シリコンバレーには外国生まれの専門家が多いことをこの連載ですでに述べたが、医療の世界においてもそうなのである。発展する国とは、優秀な頭脳を外から受け入れる国なのだ。アメリカは、これまでもずっとそうであったが、1990年代以降、その傾向がますます強まった。イギリスも似たような状態になった。
日本では、労働力人口がすでに減少しつつあり、今後はさらに減少する。それを踏まえれば、外国の人材、とりわけ専門家を受け入れるのは、どうしても必要なことだ。
政府も、外国の専門家を積極的に受け入れる方針だ。昨年6月の新成長戦略では、高度外国人材を2009年末の約15・8万人から20年までに30万人程度に増やす計画だ。
日本経済新聞(3月8日付)によれば、日本政府は、 優れた技能を持つ外国人に対して永住要件を緩和する方針を決めた。12年7月の導入を目指すという。対象は「医療・介護」や「情報通信」などで専門性を持つ外国人で、学歴や年収、職務経験などのほか、日本語の能力なども重視し、一定以上の能力があれば政府が「高度人材」と位置付け、連続10年の在留が原則の永住許可要件を5年に短縮する。