(第57回)高度外国人材を受け入れるには

✎ 1〜 ✎ 56 ✎ 57 ✎ 58 ✎ 最新
拡大
縮小


 ただし新興国の人材にとって、日本がまったく魅力がなくなったわけではない。中国や韓国の学生にとって日本はいまだに魅力がある存在だ。

そして、円高になれば日本の魅力は増す。

ところが日本人は、円高のその側面に注意を払っていない。外国人の来日を求めるにしても、旅行客を求めているのである。医療に関しても、医師や看護師を呼ぶことではなく、「メディカルツーリズム」と称して外国人の患者を呼ぶことを考えているのだ。

しかし、円高が進めば旅行客は減る。ユーロ高で一時ヨーロッパからの観光客が日本に増えたが、円高が進むと減ってしまった。それなのに日本人は発想を転換しようとしない。これは「日本で作ったものを新興国に売ろう」というのと、まったく同じ発想である。

円高が進めば、日本で作ったものを外国に売ったり観光客を日本に呼び込むのは、難しくなる。しかし、働く人を呼び込むことは容易になる。マーケットは「外国から日本に人を受け入れよ」と言っているのだ。現在、日本が行おうとしているのは、そうしたマーケットのシグナルとは逆のことである。

国際的な人材獲得競争は激化している。日本がこのチャンスを利用せずにぐずぐずしていれば、優秀な人材は他の国にさらわれてしまうだろう。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年3月26日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT