ただし新興国の人材にとって、日本がまったく魅力がなくなったわけではない。中国や韓国の学生にとって日本はいまだに魅力がある存在だ。
そして、円高になれば日本の魅力は増す。
ところが日本人は、円高のその側面に注意を払っていない。外国人の来日を求めるにしても、旅行客を求めているのである。医療に関しても、医師や看護師を呼ぶことではなく、「メディカルツーリズム」と称して外国人の患者を呼ぶことを考えているのだ。
しかし、円高が進めば旅行客は減る。ユーロ高で一時ヨーロッパからの観光客が日本に増えたが、円高が進むと減ってしまった。それなのに日本人は発想を転換しようとしない。これは「日本で作ったものを新興国に売ろう」というのと、まったく同じ発想である。
円高が進めば、日本で作ったものを外国に売ったり観光客を日本に呼び込むのは、難しくなる。しかし、働く人を呼び込むことは容易になる。マーケットは「外国から日本に人を受け入れよ」と言っているのだ。現在、日本が行おうとしているのは、そうしたマーケットのシグナルとは逆のことである。
国際的な人材獲得競争は激化している。日本がこのチャンスを利用せずにぐずぐずしていれば、優秀な人材は他の国にさらわれてしまうだろう。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年3月26日号)
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