医師の国際移動の実態は、どうなっているだろうか。これに関しては、世界銀行のデータがある。
下表に示すのは、オーストラリア、イギリス、アメリカへの医師の移民数だ(1000人以上の移民医師がいる国は、このほかにドイツとスイスがある。また、アメリカに1000人以上の移民医師を出している国は、表に示すもののほかにイスラエル、日本、南アフリカ、台湾、オーストラリア、コロンビア、ロシア、タイ、ベトナム、バングラデッシュ、トルコ、ウクライナがある)。
アメリカにおける移民医師は、1000人以上の移民を出している国の出身者を合計するだけでも14・3万人いる。これは、アメリカの医師総数87・2万人の16・4%にも上る。このうち、イギリス出身が38・9%、オーストラリア出身が14・1%だ。
旧英連邦内の移動を別とすれば、途上国から先進国への移動が多い。低所得国から先進国に頭脳が流出するのは、自然の動きである。なかでもインドからの移民が多い。パキスタン、フィリピンからも多い。
その数は、途上国の側からは無視できない。インドの場合、流出医師数はインドの総医師数の13・1%にもなるので、インドの国内医療に大きな打撃を与えているだろう。
だから、世銀はこれを頭脳流出と捉え、途上国の立場から問題としているのだ。確かに、優秀な人材を教育したのに外国に行ってしまわれては損失だ。他方で、先進国は途上国における医学教育にタダ乗りしていることになる。