(第58回)厳しい供給制約に直面する日本経済

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(第58回)厳しい供給制約に直面する日本経済

東日本大震災という緊急事態の発生にかんがみ、今回は震災をめぐる内容とする。

現在、被害地救済や原発事故対処のために、緊急の活動が行われている。以下では、これらが一段落した後の中長期的な観点から、日本経済について論じることとする。

災害からの復興のため、投資が必要になる。まず公共主体による社会資本施設の再建が必要だ。企業は工場などの生産設備の復旧を進める。それに加え、一般家計による住宅投資が必要だ。その総額はどの程度になるだろうか。

今回の災害で被災した方々の総数は、総人口の1%近くに達した可能性がある。これを参考にして、仮に日本の実物資産総額(2007年末で2536兆円)の1%が失われたとすれば、損害額は25兆円だ(実物資産の中には土地も含まれるが、津波の被害を考えると、土地も損傷したと考えられる)。

投資額は、どの程度の期間をかけて復興を行うかによる。完全な復旧には数年を要するだろうが、主要な投資は早急に行われなければならない。したがって、今後1~2年の年間投資額は、10兆円程度となる可能性がある。これは、08年度の総固定資本形成112兆円のおよそ1割だ。つまり年間投資額が1割程度増えるわけだ。このことの意味は何か。

供給力が十分あるにもかかわらず需要が不足している経済、つまりケインズ経済学が想定するような経済では総生産が拡大する。経済危機後の日本は、こうした状態にあった。エコポイントなどの需要喚起策が効果を発揮したのは、このためである。これと同じ効果を復興投資に期待して、「復興特需による日本経済再生」を期待する向きもあるようだ。

しかし、そうしたことにはならない。なぜなら、震災後の日本では供給能力に深刻なボトルネックが生じているからだ。それは電力を見れば明らかである。電力はあらゆる経済活動にとって必要不可欠なものだ。したがって、これだけを考えても需要の増大に応じて自動的に生産が拡大することにはならない。

供給制約があるため需要を削減する必要がある

わかりやすく言えば、次のようなことである。いま多数の機械がある工場を想像してみよう。経済危機後は輸出が減ってしまったので、機械をすべて稼働させることが出来なくなってしまった。つまり、需要の制約で生産量が減少したのである。このような状況で追加的な需要が発生すれば、機械の稼働率が上昇し、生産も拡大する。これがケインズ経済学が想定するメカニズムである。

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