(第58回)厳しい供給制約に直面する日本経済

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クラウディングアウト回避のために増税が必要

以上はマクロ的な資源配分を、物財の需給バランスの観点から見たものだ。同じことを資金循環の面から見ると、次のようになる。

これまでは、民間資金需要が低迷していたので、国債が順調に消化されてきた。しかし、今後は復旧のための投資資金需要が増大するので、その状態が継続すると期待することはできない。つまり、クラウディングアウトが発生し、金利が上昇する可能性が高い。

企業が対外資産を売却して円に換えるとの予測が、一時急激な円高をもたらした。国内金利の上昇は、海外からの資金流入をさらに増加させ、円高をさらに進める。この効果の一つは、輸入を増加させることだ。一般的な財については、これによってマクロ的な需給バランスが緩和されるので望ましい。しかし、電力は輸入できないので、電力制約が緩和されることにはならない。

円高は、日本企業の海外移転をさらに促進させる。これまで国内で生産されていた製品を海外で生産し、それを輸入することとなる。これも需給バランス緩和の観点からは望ましい変化だ。ただし、国内の雇用は減少するし、これまでも円高による利益減少に悩んできた日本の輸出産業は、さらに困難な事態に陥る。だから、円高への抵抗が強まるだろう。

円高回避のためにはクラウディングアウトを回避する必要があり、そのためには、国債以外の手段による財源調達が必要である。

まず第1に、マニフェスト関連経費の削減が必要だ。当面の措置として、これらを凍結すべきである。これらの最終的な扱いは、事態が収束した後の段階で改めて判断すべきだ。もともと問題を含んでいたマニフェスト関連政策はこの機会に破棄すべきだと、私は考える。

それだけでは十分な財源は調達できないので、増税が必要である。最大のボトルネックである電力需要を抑制できるような増税が望ましい。現在は、「計画停電」という量的割り当てによって強制的に電力需要を抑制している。しかしそれよりは、電力料金の引き上げ、または課税によって需要総量を減らすほうが望ましい。ただし、電力10社の電灯料、電力料の合計は、09年で約15兆円なので、電力課税だけで必要な財源を調達することはできない。したがって、消費税、所得税などの基幹税の増税がどうしても必要だ。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年4月2日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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