「きわめて現場主義であるところは、総合商社の中でも抜きん出ていると言っていいのではないでしょうか」
副社長CAO(Chief Administrative Officer)の小林文彦さんは、伊藤忠の“らしさ”についてそう話す。現場主義はもともと社風として存在していたものの、現在、会長を務める岡藤正広氏が社長になってから、強みとして磨かれてきたという。
組織の規模が大きくなると、ピラミッド構造ができてしまい、マネジメントと現場の距離は遠くなってしまう。それが結果的に、ビジネスチャンスを逃したり、課題解決を遅らせてしまったりすることもある。が、伊藤忠は現場を最優先にすることで、その陥穽に陥らない道を選んできた。
「伊藤忠グループの行動指針である『ひとりの商人、無数の使命』は、商人として現場に足を運び、商人目線でお客様のニーズを読み、それを自分の使命ととらえて商いを営んでいく。現場で自分の使命を果たすことを指しているのです」(小林さん)
伊藤忠が掲げている商いの三原則に「か・け・ふ」という言葉がある。これは「稼ぐ・削る・防ぐ」の頭文字をとったもので、一見すると当たり前のように映るがそうではない。商いとして“稼ぎ”を上げながら、極力無駄を“削り”、予測されるリスクを“防ぐ”。そこに目配りすることを基本としているのだ。
自ら動いて成果を出す厳しさも求められる
現場主義はコロナ禍でも変わらない。
「行動制限を強いられる中でも、ファミリーマートはずっと開いていたし、スーパーへ行っても何でも売っていました。こうした現場を支えるのが伊藤忠なんです。現場が大事だ、現場で働くんだと言っている以上、会社もそれを徹底的にサポートします。
社員の安全が何よりも大切だということで、伊藤忠は日本企業の中でいちばん早く職域接種を始めました。出勤率についてもこれまでに24回変更しています。緊急時には出勤率を引き下げ、感染拡大の収束の見通しが経ってきたら引き上げる、いわば匍匐前進を続けてきました。それだけのスピード感を持って社員の安全を確保しているから、社員も納得するんです」(小林さん)
また現場主義だけでなく、伊藤忠の独自性として「自由な発想、自由な発言、自由な行動をよしとする風土が昔からあるのです」と小林さんは言う。よりよい成果を出すために率直な意見が求められるし、多少突飛な発想であっても未来への可能性があれば「やってみて」となる。ただし、それは「野武士集団」と言われることが象徴しているように、自ら動いて成果を出す厳しさも求められる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら