今の日本で人との「適切な距離感」が難しいワケ 「抑圧」と「自由」の間でどうバランスを取るか

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原稿を書きながら音声コンテンツを聞くなど、何か他のことをしながら仕事をしたいという人も少なくありません。かと言って、あらゆる隙間に情報を詰め込むと、人は溺れてしまいます。

ですから、情報もなにもない、マインドフルネス的な時間を意図的に作ることも大事です。僕は、ランニング、散歩、登山などをしていますが、心が求めているのだと思いますね。

登山で経験した「畏怖」と「恐怖」

本書には、大自然に対する畏怖の念が幸福度を高めたり、一方で、それが「恐怖」を引き起こしたりすることが書かれています。

これは特に、登山で体験しますね。20代の頃は、ロッククライミングをしていたため、一般登山道の岩稜帯ぐらいなら走るぐらいの気楽さで通過することができました。自分が落ちるとは思っていないからです。

ところが、ロッククライミングをやめて20~30年経った今は、岩稜帯へ行くと、「怖いな」と思うときがあります。その瞬間、頭の中にひとりごとが発生し、「落ちたらどうなるのか」をイメージしはじめて、急に足がすくんでしまうのです。畏怖の念が、恐怖に変わる瞬間ですね。

一方で、恐怖なしに畏怖の念だけを感じられる体験もあります。いちばん記憶にあるのは、20代前半で冬富士に登ったときのことです。

冬山でも富士は難しい部類に入ります。傾斜がきつく、登山道は雪で消滅して凍っています。アイゼンも刺さりにくく、強風が吹き荒れていて、ちょっとでも足を滑らせれば、滑落死します。

20代の頃は、それでも恐怖を感じずにスイスイ登頂しました。雲海を抜けると、朝日に照らされた富士の斜面が、碧く黒くぎらぎらと輝いている――その信じられない世界を、自分の手足だけで体を支えて眺めていると、何とも言えない畏怖の念に打ちのめされるのです。

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