家庭内の不和は限界に達し、夫は家を出ていった。だが、別居生活によってひろみさんと子どもの生活は窮地に陥る。夫が、母子が暮らす家の電気代や水道代、ガス代、子どもの小学校学費といった支払いを次々にやめたからだ。
暴力から逃げただけなのに
昨年末、裁判所は夫に生活費の支払いを命じたが、夫はしばらく裁判所の判断すら無視した。さらに住宅ローンの返済までやめてしまう。その結果、金融機関は母子が生活していた建物を競売にかけた。
家を去るしかなかったひろみさんと子どもたちは、この10月に関東圏のある集合住宅に移り住んだ。私立学校に通っていた子どもたちは地元の公立小学校に転校することになった。
新生活をスタートさせたひろみさんだが、不安は消えない。この2年、派遣会社に登録し、日銭を稼ぎながら生活費や弁護士費用を工面してきた。今後の裁判で離婚が成立したとしても、夫が養育費を払う可能性は低い。日本の司法制度には養育費不払いへの刑事罰が存在しないからだ。
ひろみさんは言う。「周囲に知り合いはおらず、助けてくれる人も、気軽に相談できる人もいない。つらいです。夫の暴力から逃げただけなのに、私も子どもたちも一気に孤立してしまった」。
孤独感の原因を示す上の表に照らし合わせると、ひろみさんは「家族間の重大なトラブル」によって孤独や孤立に陥った。今後はそこに「生活困窮」が加わる懸念もある。冒頭の渡部さんは「心身の重大なトラブル」、健二さんは「家族との離別」がきっかけだ。