孤独死した40代男の部屋に見た20年に及ぶ孤立 「ひきこもり」経て親も亡くなり悲劇は起きた

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若くして孤独死してしまう人が後を絶たない(写真:KatarzynaBialasiewicz/iStock)

突き刺さるような寒さの冬のある日、特殊清掃人の上東丙唆祥(じょうとう ひさよし)さんは、特殊清掃現場である某所の団地に向かっていた。ほどなくして、老齢の女性が現れた。

女性によると、この団地でひきこもりの末の孤独死があり、その清掃をお願いしたのだという。亡くなったのは姉の息子、つまり女性の甥っ子にあたる男性、高橋さん(仮名)だ。高橋さんは、40代前半という若さで、この団地で孤独死していた――。

死後1カ月が経過していた

近所の住民が部屋の前から異様な臭いが発生していることに気がつき、管理人室に駆け込んだ。その後、通報を受けた警察がすぐに部屋に突入したが、時すでに遅く、奥のこたつのある部屋で息絶えていたという。死因は不明だが、警察によると死後1カ月が経過していた。

80代の親が50代のひきこもりの子供を支える「8050問題」が、社会問題となっている。年間約3万人と言われる孤独死も、この問題と決して無関係ではない。私自身、元ひきこもりの当事者である。孤独死をテーマに長年執筆を続けているが、孤独死現場で亡くなった人について遺族や大家に取材すると、その多くがかつての自分と同じひきこもり状態だったことを知り、心を痛めてきた。

8050問題に代表されるひきこもりの末の孤独死は、残念ながらもうすでに現場では毎日のように起こっているのが現状だ。

高橋さんの叔母によると、この団地では、かつて姉夫婦と息子である高橋さんが暮らしていたが、父親が他界した後、ほどなくして母親も他界した。

高橋さんは、母親が亡くなる前から少なくとも20年近く引きこもっていた。そのため、母親が亡くなった後は、遠方に住む叔母が仕送りをする形で、面倒をみていたらしい。高橋さんの母親は、自ら亡き後の息子の行く末を案じていたに違いない。息子のためにわずかな遺産を、亡くなる直前に高橋さんの叔母である妹に託していた。高橋さんは叔母から月々仕送りされるお金を引き出しながら、親が亡くなった後もひきこもりの生活を続けていた。

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