脳の障害に加え、2009年に大腸などの臓器にポリープが多発する遺伝性の病気を発症していた。定期的な手術が必要だが、治療費を払い続けることができるのかどうかが不安だ。病院に同行してくれるヘルパーに支払う費用やリハビリ費用もかさむ。
頼れる人はいないのか。彼には都内のマンションで同居する78歳の母親がいる。これまで結婚したことはなく、母親以外には遠縁の親戚が1人いるだけだ。
母親は2年前に一時入院したことをきっかけに介護が必要な状態になった。要介護の母親と障害を抱えることになった渡部さん。2人の暮らしは、たった数年でがらりと変わった。役所に相談したくても、言語障害から、うまく説明ができない。渡部さんに寄り添い、代弁してくれる人もいない。
死ぬのも生きるのも怖い
「元気にスポーツクラブに通っていたのが、今では夢のようです。いつ訪れるかわからない死への恐怖が強くありますが、長く生きてしまったら確実に金銭的に立ちゆかなくなる。生きるのも怖いんです」(同)
渡部さんのように突然病で倒れ、孤独と孤立状態に陥ることは、いつ誰の身にも起こりうる。
2021年の内閣官房の調査では、相談相手がいないと答えた割合が30〜50代の現役世代に多いことが明らかになった。
背景にあるのは、未婚化や核家族化による世帯規模の縮小だ。全世帯数のうち単身世帯の割合は4割に迫っている。年齢と婚姻形態別で見ると、孤独感を覚えている人が最も多いのは、30代の未婚者だ。
内閣官房孤独・孤立対策担当室の有識者会議メンバーの石田光規氏は言う。「結婚のデータは国が結婚を推奨しているように受け取られかねないため通常は公表しない。今回公表したのは、結婚自体が格差化し若い世代を孤独に追い込んでいる傾向が見られたからだ」
将来への不安から強い孤独感を覚える単身者もいる。