労働者、学生、市民諸君、就活が始まっているぞ。就活時期繰り下げとか言っているが、つい先日も学生から「外資系企業から内定が出たのですが、待ってもらうにはどうすればいいですか?」という相談が来たぞ。「エントリーシートを見てください」「面接のアドバイスをください」なんてメールもよく来る。すでにさまざまなメディアで報道されているとおり、ルールは着々と破られている。まあ、予想どおりだけどな。
ここで、就活生を励ますために、ただでさえ声が大きい筆者が、さらに声を大にしてこう叫びたい。
君たちより採用担当者のほうが、不安なのだ。
なんせ就活時期繰り下げというスケジュール変更の不透明感、さらには求人倍率の回復による売り手市場化の中での採用活動である。前述したとおり、他社よりもフライングして囲い込む動きがあるが、これは「囲い込もう」としているだけであって「囲い込める」保証はない。
妙な表現ではあるが、ルールを順守すると見られている総合商社、経団連の幹事クラスがいる優良大手企業にあとでひっくり返されるリスクがあるわけだ。「早期に接触して囲い込むためにカネも時間も人も投入したのに、採れないとは何たることだ」と経営陣から責任を追求されたときのことを考え、採用担当者は戦々恐々としている。
もしルールを破った場合や、厳しい拘束をした場合も、ネットで情報が流出し、叩かれるリスクがある。スケジュール変更などがない年でも、採用とは過酷な業務なのだ。
そんな採用担当者の実態を描いた文学作品がリリースされた。『あの子が欲しい』(朝比奈あすか 講談社)がそれだ。
著者の朝比奈あすかさんは、第49回群像新人賞の受賞者でもある。採用担当者を描いたものなのだが、極めて描写がリアルなのだ。就活小説と言えば、就活に取り組む学生を描き、直木賞を受賞した『何者』(朝井リョウ 新潮社)が有名だが、採用担当者を描いたこちらの作品と合わせて読むと、より立体的に就活とは何かが理解できると思った次第だ。元採用担当者としては、その苦労を描いてくれたことが何よりうれしい。
著者の朝比奈あすかさんに対談を申し込み、現代の就活や採用活動について話し合った。就活生はこの記事を読んで元気を出して欲しい。採用担当者の彼ら彼女たちも、不安でしょうがないのだから。
着想は友人との何気ない会話から
常見陽平(以下、常見):元採用担当者として、この作品に感謝しています。採用活動の現実を描いて頂き。現役の採用担当者が書いたとものかと勘違いしそうなくらいリアルでした。採用担当者の仕事ぶり、苦労は、まさに朝比奈さんが描いたとおりなのですよね。
朝比奈あすか(以下、朝比奈):ありがとうございます。ほかの取材で記者さんの声を聞いても、採用担当者を主人公にしたところが評価されているようです。
常見:ノンフィクションと言っても通じるくらいのリアリティでした。採用活動もそうですし、採用担当者でよくいる、20代後半~30代前半の独身女性をリアルに描いていると思いました。相当取材をされたのでは?
朝比奈:着想は採用担当者をしている友人との雑談から得ましたが、直接、企業や就活生に取材したことはありませんね。就職活動にまつわる情報の大部分は、インターネットの掲示板や企業の採用情報ページを参考にしました。ただ、最初は就活をテーマにした作品にしようとは思っていなかったんですよね。
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