朝比奈:確かに主人公の志帆子を通じて、そこはうまく描けたと思います。これは採用担当者をしている友人から聞いた話ですが、業界トップの会社だと採用活動もそこまで大きな負担にはならないらしいですね。むしろ、大変なのは業界4位ぐらいの中堅のポジションにいる会社。そういった会社ならではの葛藤やドラマもあると思い、志帆子の勤める会社はそれぐらいの規模を想定しました。
常見:そのぐらいの規模の会社は風通しがよかったり、部署間の連携がやりやすかったりとよいところもありますが、採用活動は相当大変でしょうね。有名な会社、大きな会社に学生が行きたがるというのは昔も今も変わりませんし。
朝比奈:常見さんが採用担当者の頃はどうでしたか?
常見:非常に忙しかったですね。タクシーで帰って朝早く出社するという生活が続きました。特に今のような就職活動解禁直後は、会社説明会を全国で実施しているので、土日も休みがありません。表からはわかりませんが、東京ビッグサイトなどで開催される合同説明会の控室は「野戦病院」さながらです。
朝比奈:というと?
常見:採用担当者は学生の前では明るくプレゼンしていますが、控室に入ると、みんな、ぐったりしていますよ。休憩中、担当者は本社にいる管理職に電話で連絡しているんです。「◯◯大学7! △△大学5! ××大学4名と接触できました!」と自分のブースに来てくれた学生の大学名と数を報告するわけです。
朝比奈:報告するときは大学名なんですね……。
常見:それくらい忙しく、切羽詰まっているんです。選考の最初の段階では、名前ではなく、大学名や学生が所属していたサークルなどで、情報共有されることも多いですね。朝比奈さんが学生だとしたら、「慶應の文学少女」といったラベルが貼られるでしょう。
朝比奈:こんな言い方はしたくありませんが、人と接するときの感覚が麻痺しそうですね。学生をぞんざいに扱うというか、学歴や見た目で判断してしまうというか。
常見:そうですね。ただ、それは採用担当者も同じで、彼らも学生からつねに見られる立場なわけです。だから心身ともに相当磨り減る仕事なのですよ。実際、採用活動が終わったら倒れる人もいるわけです。私も、倒れました(苦笑)。
学生にとってカッコよく見せるために、ボーナスは服やアクセサリー代につぎ込みましたね。当時は、スーツに1着20万円くらいかけていましたし、ベルトはプラダの、プロレスのチャンピオンベルトなみにバックルが大きなやつをしていました。結婚した後、妻からは「これは何?」って言われましたが、ネット上では「人事の常見さんのベルト、プラダだった」と書かれました(笑)。財布はグッチでいつもピン札を5枚、法人カードを含めゴールドカードを2枚、見えるように入れていて、内定者と食事をするときに羽振りがよく見えるように努力していました(笑)。こういう風に、服装も含めて戦いでしたね。
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