就活生よ安心しろ、面接官も不安なんだ 群像新人賞作家が描く採用担当者の憂鬱

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朝比奈:この作品の取材を経験して、採用担当者の仕事は非常に特殊なものだと感じました。社会に何か提供するにも間接的ですし、結果も見えづらい仕事です。だから、モチベーションを保つのも難しいでしょうね。

常見:いや、面白い仕事ではあります。予算も動かせますし。経営に関わる話なので、経営陣や社内のエースとも打ち合わせをする機会が多いですし。会社の看板ですし。採りたいと思った学生が採れたとき、自分が採用に関わった若者の成長を感じたり、その人が仕事で活躍した瞬間などはうれしかったりしますね。

ただ、優秀だと思って推した学生が上司や役員の判断であっさり落とされることもあります。そういうこともあって、自分ではどうにもならないことが多いかもしれません。

朝比奈:採用したいと思った学生がライバル企業に取られることもありますよね。

常見:そう、毎日が戦場、戦闘です。複雑な気持ちになりますね。会社にその人を採用する度量がないのか、他社と比べて社格が低いのか、待遇が悪いのか、それとも自分の採用担当者としての力が足りなかったのか、採用担当者は非常にコンプレックスを感じやすい仕事だと私は思います。営業担当者のように直接的な利益をもたらしていないですし。もちろん、負けたら負けたでちゃんと悔しがって分析しますけどね。

朝比奈:コンプレックスはその人のありのままの姿を写すものなので、小説の題材としては描きやすかったです。この物語の主人公の志帆子もほかの社員とくらべてもコンプレックスが少なく、非常にクールで優秀な存在ですが、最終的には自身の感情的な問題にぶつかりましたね。

常見:そこは現実の採用担当者も公私ともに避けられない問題です。感情を機能的に使う人、うまく気持ちを切り替えられる人もいますが、それでも自分が本当に欲しいと思った学生を取れなかったら凹みますね。しかもそういったことが毎年起こりうるわけです。

朝比奈:実りはあるにしても辛い仕事ですよね。学生は落とされる前提で就職活動をしていますし、若いからまだ立ち直りも早いでしょう。ただある程度、社格とか、自分ではどうしようもない問題に気づいてしまった30代、40代の社会人のほうが、学生から選ばれなかったときのショックは大きいと気づきました。

常見:そうですね。学生と同じ、いやそれ以上に採用担当者のほうが理不尽な環境にいるかもしれません。

採用担当者も“普通の人間”だ

朝比奈:こうして常見さんのお話を聞くと、学生だけでなく、企業の採用担当者も頑張っているんですね。

常見:学生から見ると、採用担当者は裁判官、サイボーグのような冷たい印象を受けるかもしれません。でも実際はそうじゃなくて、彼らも普通の人間なんですよね。

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