就活生よ安心しろ、面接官も不安なんだ 群像新人賞作家が描く採用担当者の憂鬱

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あの子が欲しい』(講談社)の著者の朝比奈あすかさん

常見:えっ、そうなのですか?

朝比奈:元々は、「猫カフェ」(猫とふれあうことができる喫茶店)を描いた作品を書きたいと思っていました。

常見:作中でも猫カフェは、主人公が癒やされる安息の場として描かれていましたね。

朝比奈:そうなんです。でも猫って気まぐれだから、なかなか懐かないじゃないですか。猫カフェにいる猫に好かれよう、選ばれようと頑張っている女性が、別の場所では誰かを選ぶような立場にいる。そんなギャップを小説で描けたら面白いと思いました。そこで「人を選ぶ仕事」ってなにかと考えたときに、偶然思いついたのが企業の採用担当者だったんですね。そこから猫カフェと会社を行き来する主人公・志帆子が生まれました。

採用担当者がリア充を演出していることだってある

常見:最初に猫カフェありきだったのですね。会社では評価される一方、私生活では孤独感に満ちた生活を送っている。主人公のような採用担当者は現実にも、かなり多いですよ。いや、独身女性採用担当者の報われなさは半端ないです(笑)。

朝比奈:私は創作のつもりでこの作品を書いたのですが、採用担当者がネットを使って自社の評判を演出するのはよくあることなんですか?

常見:あるかどうかで言うと、ありますね。採用担当者自身が、ソーシャルメディアでリア充な私を演出していることだってあります。作中に出てきた「他社の選考辞退の強制」や「終日GW(グループワーク)による就活生の拘束」といったこともよくある話ですね。

朝比奈:採用担当者もかなりハードな仕事だと思いました。

常見:物語の終盤で主人公が内定の欲しい学生に、あることを強制するじゃないですか。あの場面は非常に臨場感も緊張感もあって、自分が採用担当だった頃を思い出しまいた。

ネット就活で何が変わったのか?

朝比奈:そのシーンを書いていても思ったのですが、私が学生だった時代よりも、就職活動の難易度がぐんと上がった気がします。

常見:1990年代までの「就職活動」から2000年代以降の「就活」は、そもそも大学と大学生のあり方から、自由に応募できる就職ナビが登場したこと、ネットで情報収集できることなど、もろもろ変わっています。

一方、企業の採用担当者たちはとにかく欲しい学生を採るのが仕事なのですよね。でも、学生はたくさん応募してきても、「欲しい学生」を採るのは大変です。優秀な学生を囲い込むためにえげつない手段をとることだってあります。

特に今は「おわハラ」という言葉が問題になっていますね。

朝比奈:それはどんな意味ですか?

常見「就活終われハラスメント」の略称です(笑)。採用担当者が、学生に対して他社の選考を辞退するように目の前で電話させたり、毎日のように選考スケジュールを入れて他社を受けさせないようにしたり、学生を囲いこもうとする悪質な行為ですね。学生側からは内定を辞退する権利があるのですけどね。最近は大学などで構成される就職問題懇談会のほうでも、それを抑止するために動き始めました。

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