塩野:そういった国際機関に行き着く手前の段階、つまり学生などまだ若い人は、日本で日頃どういう準備をしたらいいですか。
佐藤:難しいですねえ。これは私が自分でやっていることでもあるんですけど、ある事象が起きたときに、何でこれはこうなってるんだろうかと考えて、それが問題だったら、それを解決するには何が必要なんだろうとつねに考えることですね。
カネなのか、法改正なのか、法律は改正しなくていいけど、単なるパブリックコミュニケーションでいいのかと考える。でも1人で考えていてもダメで、チームの中で議論したり、それをブログやフェイスブックなどで発信してみることですね。そうすると自分の中でも、いま世の中で起きていることが当たり前だと思わなくなる。
「倫理的に許容」では法的なことがわからない
これはよく使う例ですけど、エボラ出血熱にはまだ承認薬がないんです。WHOが未承認薬を使ってもいいんじゃないかという勧告を出してはいます。でも、国内法上どう扱われるのかについて、まだきれいな答えは出ていなかった。それで日本では先日、厚生労働省から「未承認薬を使うことは倫理的に許容される」という文書が出た。
塩野:倫理的にということは、法的には許容されないということですか?
佐藤:まずそう思うでしょう? 法的に許容される方法はいくつかあるはずなのに、何で「倫理的に許容される」で終わっちゃったんだろうと思います。いろいろと難しいことはあるのだと思いますが、これで本当にエボラ出血熱患者が出たときに、安心して未承認薬を使えるんだろうかと考えちゃうんです。もちろん使えて然るべきですけど。
塩野:そういう事件が米国でありましたよね。バイオテックの会社で希少難病の薬を開発していて、お医者さんが、ある難病の少年に、「あの未承認薬を使ったら、もしかしたら治るかもしれない」と言うけれど、まだ承認が下りない。少年の家族もフェイスブックなどで、「あの薬さえあれば」と発信した結果、ありとあらゆる人が会社に圧力をかけはじめた。確か最終的に未承認薬の例外的使用でその薬を使ったんですよ。
でもその結果、会社のCEOはクビになったんです。クビになった理由は明確にはわかりませんが、この問題によって万人が薬を使用できる機会を与えるべきという公平性の問題も提起されました。
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