在宅ばかりの人は脳が本来の役割を果たせてない 体を動かさないことは脳の存在理由と矛盾する

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昔より50%歩かなくなった私たちが認識しておかなければならないことは?(写真:shimi/PIXTA)
スマホやタブレットの登場。そしてコロナ禍の在宅ワークにより、歩かなくなった私たち。「体を動かす時間の減少は脳にとって深刻な問題。脳への影響が免れない」と語るのは、『運動脳』を上梓したアンデシュ・ハンセン氏。座りがちで画面に釘付けなライフスタイルが脳をどう変えているのか、デジタル社会への警鐘を込めて同書より一部抜粋・再編集してお届けします。

われわれの脳は「サバンナ時代」から変わっていない

今この記事を読んでいる人で、生きるために狩りをする必要のある人はどれくらいいるだろう。大半の人は、インターネットにアクセスして指を動かせば、食材が家まで届く。こうした変化によって、私たちが身体を動かす機会は大幅に減った。歩数計をつけていたはずもない祖先と厳密な比較は難しいが、今でも狩猟採集生活や農耕生活を営んでいる人と比べれば参考値が出せる。

東アフリカ・タンザニアで狩猟採集生活を行うハッザ族、農耕生活を営むアメリカのアーミッシュ、そして欧米の一般人の歩数を比較したところ、実に2倍の開きがあった(前者2つが1日1万〜1万4000歩、現代人が6000歩)。

古代の狩猟採集生活から現代のデジタル社会へと世の中が変遷するなかで、私たちの活動量は少なくとも半分に減ったと推察できる。

この歩数の減少は、私たちの脳にダイレクトに影響する。私たちの生活様式は、脳の進化をはるかにしのぐ速さで変わった。生活様式の変化に、肉体が追いついていない状態だ。遺伝子に大きな変化が起きるまでには、数万年が必要となる。しかし、工業社会が始まり、人類が「体を動かさなくてよくなった」のはほんの200年前に過ぎない。

生物学的には、私たちの脳はまだサバンナにいる。人類の歴史において、ほとんどの時代、身体を動かさなければ食料を手に入れることも、生き延びることもできなかった。そのため、私たちの脳と身体は動くのに適したつくりになっている。つまり、体を動かさないことは脳の存在理由と矛盾するのだ。結果、不安にとらわれて悲観的になったり、物事に集中できなくなり、脳のさまざまな機能が衰えてしまう。

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