
[Book Review 今週のラインナップ]
・『男女賃金格差の経済学』
・『歴史のなかの貨幣 銅銭がつないだ東アジア』
・『世界1万年の住宅の歴史』
評者・明治学院大学教授 岡崎哲二
本書は、組織経済学・人事経済学の分野で研究を牽引してきた著者が、男女間賃金格差について体系的かつ一般読者にわかりやすく論じた書物である。取り上げられている論点は、国際的に見た日本の男女間賃金格差の現状、格差の測り方、格差の原因、格差解消の処方箋、解消の意味など多岐にわたる。
家事・育児の偏り、差別的処遇… 男女格差の構造を変える道筋
本書の基礎には、男女間賃金格差は社会構造と人々の意識に根差している、という見方がある。社会が直面する問題を広く深い文脈で捉えるこの見方は、社会科学において本質的な重要性を持つ。一方でそれは、ともすると問題の解決は難しいという悲観的結論に結びつきやすい。
著者はこうした構造的な見方に立ちながら、格差を生む構造を成り立たせている要素を分析的に解きほぐす。さらに、各要素への対処方法を提起することで構造そのものを変える道筋を示しているのは、本書の優れた特長の1つだ。
第1章では家計と企業をプレーヤーとする社会的なゲームが例示される。ある社会で、「女性が家事・育児を行う」と「企業が男女を差別的に処遇する」という行動様式の組み合わせが均衡(ナッシュ均衡:自分だけが行動を変えても利得が大きくならない状態)となり、安定した制度・慣行を形作っているとする。男女格差のある状態で安定してしまった日本社会は、この均衡にあったといえるだろう。