ロシアへの「経済制裁」効いているのかいないのか 戦争が長期化するかどうかは経済状況次第

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Q5 ロシア・ウクライナ戦争の経済的帰結をどう予測するか?

今回の紛争は、次のように考えられる両極端なシナリオの間のどこかに着地するだろう。

一方の極端は、ロシアがウクライナを占領したうえ、東欧・コーカサス・北欧諸国にも軍事的侵攻を続けるか、ないしは西側諸国と激しく冷戦対峙するというものである。

この場合、ロシアは、ソ連時代に匹敵する厳しい経済封鎖の下で、ウクライナ復興と軍事行動・軍拡への多大な財政投入を余儀なくされる。国内の経済的疲弊も進み、徐々にしかし確実に衰退するだろう。

ただし、数年をかけて、中国などの権威主義諸国を利用しつつ、西側諸国の経済封鎖をかいくぐるシステムを構築し、非常に低水準だが拡大再生産を実現する道を確保するだろう。

もう一方の極端なシナリオは、ウクライナがロシアを軍事的に打ち負かし、その反動としてプーチン体制が瓦解し、自由民主主義的な政権が樹立されるというものである。この場合、ロシア新政府は、ウクライナへの戦争犯罪を認め、その補償として、ウクライナに対する長期間かつ極めて多額な財政支援を余儀なくされるだろう。

どちらのシナリオでもロシア経済の衰退は不可避

世界銀行は、ロシアの軍事侵攻によるウクライナの直接的な被害額を600億ドルとする評価を公表し、ウクライナ政府は、間接的な被害も含めると損害額は5649億ドルに達すると見積もっている。

現時点でも非常に多額の損失だが、戦争が継続すれば損害額はさらに膨れ上がることが避けられない。この戦争被害をロシア財政で全面補填するとなれば、その副作用としてロシア経済の衰退が加速するだろう。

後者のシナリオは、世界経済へのロシアの復帰が見込まれる分だけ、ロシア経済にとってはよりよい道になるかもしれないが、この場合でも、同国の市民生活は長期にわたって厳しい状況に陥ると予測する。

学術・技術開発活動の大幅な後退はいわずもがなであり、頭脳流出や人口危機の加速も伴って、じりじりとロシア経済の潜在力を蝕むだろう。未来が両極端なシナリオの間のどこに着地しようとも、ロシアの経済的将来は暗い。

岩﨑 一郎 一橋大学教授
いわさき いちろう / Ichiro Iwasaki

一橋大学経済研究所ロシア研究センター教授。1966年愛知県名古屋市生まれ。一橋大学大学院経済学研究科卒。経済学博士(2001年、一橋大学)。日本国外務省専門職員、在ソ連邦(後ロシア連邦)日本国大使館書記官を経て、2002年1月、一橋大学経済研究所に専任講師として着任。2009年から現職。専攻は、ロシア東欧経済論、比較経済体制論、移行経済論、企業金融論。これまでに200点以上の学術図書や雑誌論文を、日本語、英語、ロシア語、ハンガリー語で刊行。ロシアや日本の学術機関から学術賞を受賞。著書に『中央アジア体制移行経済の制度分析:政府・企業間関係の進化と経済成果』『比較経済分析:市場経済化と国家の役割』など

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