一方で、こうした経済的混乱や景気後退が、ロシア市民のプーチン政権への怒りを、戦争を止めるに十分なレベルにまで高めるか否かは判断が難しい。
ロシアでは、自家農園を利用した食料の自給自足や地縁・血縁を介したインフォーマルな経済交換ネットワークが深く浸透している(特に、プーチン支持率が高い地方や農村地域に多い)。長らくこのシステムが、フォーマルな経済活動の悪影響を緩和する「ダンパー」の役割を果たしてきた。
ロシア独特の強靱性と制裁の抜け穴には注意
ロシア経済のこうした二層構造の強靭性を過小評価すると、経済制裁効果の評価と将来予測を大きく損なう恐れがある。さらに、プーチン政権の資源配分能力は非常に強力で、ロシア国民に困窮生活を強いてでも、軍産複合体を維持し続ける可能性は十分にある。この点を軽視してはならない。
EUやG7政府が組織立って制裁の抜け穴をすべて効果的に封鎖できるとは考えられない。
暗号資産やCIPSを介した資金取引に注目が集まっているが、このほか、外交特権で税関などで中身の確認が行われない外交行嚢(封印袋)を使ったクーリエ(外交文書の運搬)による現金輸送や、中国やそのほかの親ロシア的な国々を介した金融仲介・信用供与、海外のロシア人や企業、さらにロシア・ウクライナ戦争の継続から利を得る勢力からのサポートといった制裁崩しも考えられる。これらの対抗策をすべて効果的に抑止することは難しい。