意外に知らない「キリスト教」世界最大になった訳 広がっていった経緯は複雑で、かなり政治的

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聖書の中身とキリスト教が広まった経緯について解説します(写真:Saint_A/PIXTA)
社会、とくに欧米社会を理解するという意味で、宗教についての理解は欠かせません。世界最大の信者数であるキリスト教の教義をまとめた聖書は世界で最も読まれた書物だといわれていますが、その中身はどんなものなのでしょうか。新著『教養として学んでおきたい聖書』を上梓した宗教学者の中村圭志氏が解説します。

旧約聖書は「古代イスラエル宗教文学全集」

聖書とはどんな本であるのか、簡潔にまとめてみましょう。

旧約聖書は「古代イスラエル宗教文学全集」と理解するのがたぶんよろしいでしょう。ユダヤ人のご先祖であるイスラエル人たちがどんな民族的・宗教的アイデンティティをもっていたかを明らかにしてくれる一代叢書(そうしょ)です。

旧約の冒頭をなす律法(モーセ五書)は、民族に団結を促す神話と戒律の書です。律法の後ろに並べられたさまざまな書の中では、預言者たちが神懸かりになって民衆を叱ったり激励したりします。

古代のどんな民族も存亡を繰り返していましたし、イスラエル人ばかりがことさらに苦難にさいなまれていたわけではありません。しかし、イスラエル人たちは自分たちの苦難を人類史上の一大事のように思い描いたのでした。この強烈な自意識があるからこそ、旧約聖書は古典の地位を獲得できたといえるでしょう。

ともあれ、イスラエル人たちの見取り図によれば、この世とは神と人間との対話の空間です。神が理想を示す。人間はそれが守れない。人間は苦難に陥り、神が救いの道を示す。気宇壮大なドラマです。

神という概念には矛盾があるし、御伽噺めいたところもあったりして、合理的な現代人には信じがたいような話なのですが、イスラエル人の設定した「人間に倫理的な反省を迫る」という神の基本的な性格は、古代的あるいは民族的な伝統の枠を超えて、後世の多くの人々の倫理的思索にインスピレーションを与えることになりました。

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