「機動戦士ガンダム」が描いた人間たちの"矛盾" 知られざる安彦良和氏の「仕事」に迫る
独自の歴史マンガで世に問い続けてきた安彦作品
安彦良和氏の仕事の全体像は、今もまだ、十分に明らかになっていない。
安彦氏の名前は、1979年にテレビ放送が開始された『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン・アニメーションディレクター・作画監督の仕事によって、世界的にも広く知られている。しかしもちろん、『機動戦士ガンダム』が安彦氏の仕事のすべてではない。安彦氏は1990年頃にアニメの世界からいったん離れ、マンガ家の仕事に専念し、誰にもまねのできない独自の歴史マンガを世に問い続けてきた。
明治以降の日本近代史を対象とする『虹色のトロツキー』『王道の狗』『天の血脈』『乾と巽』。日本古代史を舞台とする『ナムジ』『神武』『蚤の王』『ヤマトタケル』。そして西洋の政治宗教史(主にキリスト教関連)を題材とする『ジャンヌ』『イエス』『我が名はネロ』『アレクサンドロス』。これらの多彩で豊饒な作品世界は、同業のマンガ家たちからも畏敬の念を集めてきた。
わかり合おうとしてわかり合えず、何らかの理想を求めるが故に暴力に走り、平和を望んで戦争へと突入していく――そうした人間の歴史の矛盾と悪循環について、安彦作品は粘り強く問い続けてきた。容赦なく残酷に。だが穏やかでユーモアのある眼差しによって。
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