以来、乃々花さんと母親の関係は、少しずつ温かいものに変わっていった。母親と自分は同じ痛みを味わってきた「同士」だと思ったら、かつては絶対的な存在だった母親が「自分と同じ一人の人間」に変わっていったのだ。
周囲の人たちとの関係も変わった
不思議なことに、母親との関係が安定すると、周囲の人たちとの関係も変わった。ずっと抱えてきた「他人への怯え」のようなものが、乃々花さんのなかから消えたからだ。
「たぶん、それまでもお母さんからの愛情はたくさん与えられていたのに、私が受け取ることをしていなかったんです。温かい言葉をかけてもらったことはないけれど、ご飯をつくってくれるとか、洗濯をしてくれるとか、そういうなかにも愛情はこもっていたことに気付くことができた。
人間って、自分が与えてもらったことしか、他の人に与えられないと思うんですけれど、私はそのときやっと、お母さんから愛情を受け取ることができた。だからそれを、他の人にも与えられるようになったんじゃないかな、と思っています」
自分は運がよかった、とも感じている。その後、母親も自分の母親である祖母との関係を変えようと働きかけたが、祖母は変わらなかった。自分の母親はたまたま変わってくれたけれど、世の中には変わらない親もたくさんいることを、乃々花さんは知っている。
つらかったあの頃があるから、いまの幸せがある。そう話す乃々花さんは、まだ20代なんだけれど、もっとずっと長く生きてきた人のように、ときどき感じられた。
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