「あなたとはもう暮らせない」。母親から告げられたのは、この面談のときだった。自殺未遂を繰り返す娘に対し、どうして接していいかわからなかったのだろうと乃々花さんは話す。以後、高校卒業までの約1年を、彼女は祖父母の家で暮らした。
母親から突き放されて、ショックだったよね? そう尋ねると、意外にも乃々花さんは「正直、ほっとした」と言う。
「本当は助けてほしい、でも自分の母親にはそれを望めない。理想と現実のギャップが、ずっと苦しかったんです。でも私がお母さんと一緒に暮らさなくなれば、その可能性にすがる必要がなくなる。だから、ほっとしました。これ以上、傷つかなくて済むから」
祖父母の家での暮らしは、穏やかだった。乃々花さんは祖父母にとてもかわいがってもらっていたし、彼女自身も祖父母に対しては、母親に抱くような「期待」をもっていなかったから、気持ちがラクだったのだ。
約1年後、乃々花さんは高校を卒業し、大学に入ったのを機に一人暮らしを始めた。
母親を「自分と同じ一人の人間」と見られるように
転機が訪れたのは、大学2年のときだった。乃々花さんはこの頃、原因不明の体調不良に見舞われる。胸痛、息苦しさ、めまい、頭痛。精神的にも、かつてなく不安定になった。
一人暮らしを続けられなくなり、やむを得ず実家に戻ると、また苦しい日々が始まった。母親との関係は、昔のまま変わらなかったからだ。「私、お母さんのことを全然信頼できていない」。乃々花さんはふと、そう気がついた。
ある日のことだった。体調がよかったので、ふらりと近所の図書館に立ち寄ったところ、親子関係の問題について書かれた一冊の本(『アダルトチルドレンと共依存』緒方明著 誠信書房)を見つけた。「自分とお母さんのことが書いてある」。読んだとき、そう感じた。
気がついたのは、こんなことだ。乃々花さんが母親を信頼できなかったように、長女だった母親も、自分の母(祖母)のことを信頼できなかったのだろう。だから母親も、乃々花さんと同じような関係しかつくれなかったのではないか。もしそうだとしたら、自分と母親は、ずっと同じ思いを味わってきた仲間なのかもしれない――。
「ちょっとこの本、読んでみて」。乃々花さんが母親に本を渡したところ、何か思うところがあったのか、母親はすぐに本を受け取った。「私も自分の母親のことを信頼できなかった。あなたには私のようになってほしくなかったけれど、結局は私も同じことをしてしまっていたんだね」。本を読んだあと、母親は乃々花さんにこう伝えたという。
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